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キルケーの恋
キルケーの恋
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              キルケーの恋
 人は恋をするものである。だがこれは人にだけ許されたものではない。神々も恋をするのである。
 これは多くの神話で見られることであるがとりわけギリシア神話においてはよく見られる話である。中には不倫もあれば同性愛もある。ギリシア世界においては同性愛は普通のことであったのでこれは驚くに値しないことである。
 だがここでは同性愛は置いておきたい。この話は男女の愛であるからだ。それではその恋について語りたいと思う。二人の神の恋の話である。
 グラウコスという神がいた。海の神ポセイドンと海のニンフの間に生まれた男であった。ポセイドンは天空の神ゼウス、そして冥界の神ハーデスの兄弟であり海を支配している。兄弟で世界を三分している強大な神であるが海の荒波を象徴してかその性格はいささか粗暴であった。そして兄弟の仲も決してよくはなかった。よく揉め事があった。兄弟ではあるがその治めている世界の勢力圏で常にいがみ合っていたのである。そしてそれぞれの優位性と自負もあった。これはどの神話でもよく見られる話である。北欧神話においてもオーディンとトールは仲がよくない。エジプト神話においてはオシリスとセトの話が有名である。
 そのポセイドンの息子として生まれた彼であるが両親の許を離れ人間の世界に入っていた。そして暫くの間漁師として生活を送っていた。だがそれが急に変わったのはある日のことからであった。
 その日彼はいつものように網にかかった魚を分けていた。そしてその中の一匹を草の上に置いた。その時であった。魚が勢いよく飛び上がり海に逃げていったのである。陸に上げられ息も絶え絶えになっていた魚がである。
「何だ、今のは」
 彼はそれを見て不思議に思った。そしてその魚を置いた草を見てみた。
 一見何の変哲もない草であった。だが妙に気になる。それに興味を持ち彼はその草を食べてみた。すると異変がその身体を襲った。
「むっ」
 忽ち全身を青い鱗が覆った。そして手に水かきが生えた。そのうえ髭が緑青の様に青くなった。彼は海に映るその姿を見て最初は大いに驚いた。だがそれは一瞬のことであった。
「我が子よ」
 その時海が割れそこから三叉を手にした青い髭の大男が姿を現わしたのだ。
「貴方は」
「余は海神ポセイドンという」
 男はそう名乗った。
「えっ」
 グラウコスはそれを見て震え上がった。
「海の神が私に何か御用でしょうか」
「そなたは今まで地上の人間に預けていたのだ」
 彼はそう語りはじめた。
「だがそれももう終わりだ。時が来た」
「時が」
「そうだ」
 ポセイドンは答えた。
「そなたを迎え入れる時が来たのだ。海の世界にな」
「しかし私は」
 だがグラウコスは
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