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キルケーの恋
キルケーの恋
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彼に対してそう言った。
「君みたいに積極的に何でも言える人もいれば言えない人もいるんだ」
「そういうものなんだ」
「うん。それでね、僕は君に矢を放ったんだけれど」
 彼は少し言葉を濁した。
「間違えてしまってね。キルケーに向く筈がスキュラに向かってしまったんだ」
「だから僕は彼女を好きになってしまったのか」
「そういうことなんだ。御免、キルケー」
 彼はキルケーに謝罪した。
「僕のせいでこうなってしまったよ」
「いえ、それは違うわ」
 キルケーは彼の謝罪に首を横に振った。
「全ては私の嫉妬のせい。私が嫉妬に狂わなければこんなことにはならなかったのだから」
 彼女は目を伏せていた。そしてその目から涙を零した。それは床に落ちはじけた。
「グラウコス、御免なさい」
 その涙に濡れた目で彼を見た。
「あの娘が憎くて、それで・・・・・・」
 そこまで言うと両目を右手で覆った。そしてその場に泣き崩れてしまった。
「キルケー」
 グラウコスはそんな彼女に声をかけた。
「薬はあるの?」
「薬?」
 キルケーは顔を上げた。その目はまだ濡れている。
「うん、彼女を治す薬だよ。元に戻すこともできるだろう」
「え、ええ」
「ならその薬を欲しいんだ。それで治るならね」
「それで・・・・・・いいの?」
「うん」
 グラウコスは答えた。
「それを僕にくれたらいいよ。それだけでいい」
「そう」
 彼女は頷いた。そして宮殿の奥に姿を消した。暫くして陶器の瓶を持って来た。
「これよ」
「これなんだね」
「ええ。これを身体にかければ」
「元に戻るんだね」
「ええ」
「よし、わかった」
 グラウコスはそれを手に取った。そして言った。
「これで彼女が元に戻るならそれでいいよ」
 そして宮殿を後にし岸辺に向かった。エオスが一緒だった。
「エオス」
 グラウコスは岸辺に着くとその場に泣き崩れているスキュラを指差した。
「これを彼女にかけてあげて。僕はここにいるから」
「君自身が行かなくていいんだね」
「うん」
 彼は答えた。
「僕はね。ここで見守らせてもらうよ」
「わかった」
 エオスは空を飛びスキュラの上に来た。そして彼女の身体に薬をかけた。すると腰の犬達が消え彼女は元に戻った。
「えっ」
 スキュラはまず自らの腰を見て声をあげた。
「まさか・・・・・・これは夢!?」
 彼女は自分の身体が元に戻ったことがまだ信じられずにいた。腰の辺りを触る。
「夢じゃない、ちゃんと元に戻ってる」
 そして嬉しさのあまりその場で踊りはじめた。裸であったが気にはしていなかった。
「これでいいんだね」

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