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キルケーの恋
キルケーの恋
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何かいる」
 彼女はすぐに海の中を覗き込んだ。そして蒼ざめた顔ですぐに丘に出た。
「ひいっ!」
「何、どうしたんだ!?」
 グラウコスは飛び出そうとしたが咄嗟にそれを抑えた。そして彼女を見た。見れば彼女は半分は元の美しい少女のままであった。だが半分は違っていた。
 腰までは元の美しいスキュラのままであった。あどけないながらも整った顔と波がかった豊かな髪、そして大きくなろうとしている胸。白い肌。しかし腰から下はまるで違っていた。
 何とそこには六匹の禍々しい顔をした犬達がいた。口からは涎を垂らし牙を剥いている。そして十二本の脚で立っていた。まさに魔獣そのものであった。
「ど、どういうこと・・・・・・」
「何なんだ、あれは」
 スキュラもグラウコスも呆然としていた。二人共何が起こったのか全くわかってはいなかった。だがグラウコスはすぐにわかった。何が起こったのか悟った。
(キルケーだ!)
 彼女の薬によるものだとすぐに理解した。彼は怒り狂ってキルケーの宮殿に向かった。そして怒鳴り込んだ。
「キルケー!」
 彼女を呼ぶ。だが反応はなかった。
「何処にいるんだ、出て来い!」
 その手には三叉がある。何に使うつもりなのかはもう言うまでもなかった。
「隠れても無駄だ!この三叉の力は知っているだろう!」
 海の神ポセイドンが自らの眷属に与えるものである。一振りで大津波を起こすことが出来る。それによりこの宮殿を海の中に沈めることも可能なのである。
「早く出て来い!さもないと御前を許さないぞ!」
「ここにいるわ」
 ここで声がした。声は今グラウコスがいる大広間の玉座からであった。いつもキルケー自身が座っている玉座だ。赤い珊瑚で作られている。
「そこにいたのか」
「ええ」
 玉座を睨みつけるグラウコスに答えが返ってきた。そしてキルケーの姿が浮かんできた。彼女は玉座の前に立っていた。
「貴方が来た理由はわかっているわ」
「そうか」
 彼はキルケーを睨みつけたまま答えた。
「じゃあ僕が今君をどうしたいと思っているのかもわかるね」
「勿論よ」
 彼女は答えた。
「それがわかっているからここに姿を現わしたのよ」
「いい度胸だ」
 彼は目に怒りの炎をたぎらせて言った。
「じゃあ今やってやる。彼女にあんなことをした報いを受けてもらう。けれどその前に聞きたい」
「何!?」
「何故彼女にあんなことをしたんだい!?よりによって化け物に変えてしまうなんて」
「それは」
 キルケーは口ごもった。
「言えないのかい!?まさかそんな筈はないだろう」
「ええ」
 しかしその目を伏せてしまった。
「けど」
「けど・・・・・・それじゃあ話はわから
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