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キルケーの恋
キルケーの恋
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しているよ。まだ何もわからなかった僕に色々と教えてくれて。それは本当に感謝しているよ」
「いいのよ」
 キルケーは優しく微笑んで彼を宥めた。
「ポセイドン様に言われたことだし。貴方に色々教えてやってくれって」
「いや、それでも。君には本当に感謝しているよ」
「グラウコス」
「だから御免ね、酷いことを言っちゃって」
「いいわ。気にしていないから」
「有り難う」
「それでね。もう一度聞きたいのだけれど」
 キルケーは言葉を続けた。
「本当にスキュラが好きなのね」
「うん」
 彼は頷いて答えた。
「僕はどうしても彼女が欲しいんだ」
「わかったわ」
 内心深い溜息をつきながらそれに応えた。
「じゃあ惚れ薬を作ってあげるわ。何日か待ってね」
「頼めるかい?」
「ええ」
 彼女はそれを了承した。
「暫く待っていてね。できたら呼ぶから」
「うん、頼んだよ」
「ええ」
 こうしてキルケーはグラウコスに惚れ薬を作ることを約束した。彼が上機嫌で宮殿を後にするのを彼女は腹立たしげに見送っていた。
「何よ、あんな小娘」
 キルケーはグラウコスの姿が見えなくなった途端にその整った眉間に皺を寄せてこう言った。
「私の気持ちも知らないで」
 言うまでもないことであった。彼女はグラウコスに想いを寄せていたのであった。そして今彼と会っていた時に胸の中にあった失望が嫉妬と憎悪に変わっていくのを感じていた。
「それなら私にも考えがあるわ」
 彼女はそう言うと宮殿の中に入った。そして薬の調合室へと向かった。そしてその棚にある魔法の草とその他の何やらあやしげな薬を手にとった。
「これで」
 彼女は巨大な窯の前に立ちそれ等の草や薬を中に入れた。そして煮立てはじめた。グツグツと無気味な色の液と煙が沸き起こってきた。
「グラウコス、貴方の気持ちを適えてあげるわ。そう」
 彼女は無気味な笑みを浮かべながら言った。
「彼女の姿がどうなっても愛せるというのならね」
 窯を覗き込む笑みがドス黒いものとなっていた。見下ろすその白い顔がまるでタントリスに潜む異形の者達の様になっていた。それは嫉妬と憎悪に狂う暗い怒りの顔であった。
 それから数日後グラウコスはキルケーの従者に呼ばれ彼女の宮殿にやって来た。彼女はにこやかな顔で彼を出迎えた。
「待たせたわね」
「いや、そういうわけじゃ」
 そう取り繕う彼の顔は数日前よりも痩せていた。まだ悩んでいるのは明らかであった。それがキルケーの怒りをさらに深く激しいものとした。
「けれど出来たから。安心してね」
「うん」
 彼は答えた。そして彼女に案内され宮殿の中を進んだ。そして彼女は自分の部屋に彼を入れた。

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