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キルケーの恋
キルケーの恋
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ていた。だが恋に悩む彼はそれでも彼女のもとを訪れずにはいられなかったのだ。彼はそれ程悩んでいたのだ。
「なあキルケー」
 彼はキルケーの神殿に入り彼女に訴えた。
「僕は今悩んでいるんだ」
「あら、貴方が悩んでいるなんて珍しいわね」
 二人は真珠の椅子に座り向かい合って話をしていた。キルケーは彼の悩んだ様子を見てまずはくすりと笑った。
「笑い事じゃないよ」
 だがグラウコスの顔は真剣なものであった。
「僕は今とても悩んでいるんだ」
「どうしてかしら」
「実はね、好きな娘がいるんだ」
「好きな娘が」
 それを聞いたキルケーの整った眉がピクリと動いた。そして目の色が期待と不安に覆われた。しかしグラウコスはそれには気付かなかった。恋に悩んでいたのと彼女が友人であるということに安心していたのだ。
「それは一体誰かしら」
 キルケーはそれが誰なのか尋ねた。グラウコスはそれを受けて言った。
「うん、実はね」
 そして彼はスキュラのことを言った。それを聞いたキルケーの目の色が失望に変わっていった。
「どうしたらいいかな。君ならいい知恵があるだろう」
「ないわね」
 だが彼女は素っ気なくそう言い返した。
「彼女は貴方のことが好きではないのよ。諦めたら」
「何でそんなこと言うんだよ」
 グラウコスはそれを聞いて激昂した。
「君はそれでも僕の友達なのかい!?」
「友達だから言うのよ」
 キルケーはやはり素っ気なく返した。
「去る者は追わずよ。そう思わない?」
「思わないよ」
 彼は憮然としてそれに答えた。
「思える筈ないじゃないか」
「けれど言わせてもらうわ」
 キルケーの言葉は続く。
「貴方を他に想ってくれる人がいるのじゃないかしら」
「まさか」
「いえ、きっといるわ」
 そう言いながらキルケーは自分の胸が締め付けられるのを感じていた。
「グラウコス」
 そしてあらためて彼の名を呼んだ。
「スキュラのことは忘れなさい。そして新しい恋を見つけたらどう?」
「勝手なこと言ってくれるよ」
 グラウコスは首を横に振った。
「君は気楽でいいよ。他人事だと思って」
「他人事じゃないわ」
「えっ!?」
 グラウコスはそれに驚いて顔をあげた。
「それはどういう意味なんだい!?」
「えっ、あの、その」
 キルケーは自らの失言に思わず口を覆った。そして彼に気付かれていないのを確かめると誤魔化しにかかった。
「友達だから言うのよ。友達だから」
「あ、そうだったね」
 グラウコスはその言葉に我を取り戻した。
「君は何時でも僕の友達だったね。僕が神様になった時から」
「ええ」
「そのことには感謝
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