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キルケーの恋
キルケーの恋
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それを拒もうとする。しかしポセイドンはそれを許さなかった。
「これは運命なのだ」
 そう言った。
「運命」
「そうだ。そなたは余の子である。その子として海の世界に入る運命にあったのだ」
「ではこの姿になったのも」
「うむ。全ては海の世界に入る為。さあ」
 ここで海から一本の三叉が出て来た。
「それこそ海の神々の一員の証。さあ手に取るがいい」
「わかりました」
 ここまできては最早拒むことはできなかった。彼は父ポセイドンの言葉のままその三叉を手にとった。そして海に入ったのであった。
「これでよい」
 ポセイドンはそれを見て頷いた。こうして彼は海の神の一員となったのであった。
 ポセイドンは彼に予言の力を与えた。彼はそれにより漁師達に収穫等を教えたので彼等の広い支持を受けた。海の神の中ではかなり高い人気を得たのであった。そして彼の神殿には常に供え物があった。その人なつっこい性格もあり彼は常に人々から愛されていた。
 だが彼は愛情というものを知らなかった。元々純朴な漁師でありそうしたことには縁がなかったのである。その彼が海を泳ぎメッシーナで一休みした時のことであった。
「おや」
 入江に入った時であった。ふと目の前に一つの影があるのを見た。
「あれは」
 それは一人の少女であった。小柄で長い波うつ金色の髪を持った可愛らしい外見の少女であった。彼はそれを見て一目で心を奪われた。
 少女は水浴びを終えると陸に上がって服を着た。そしてそのまま何処かへ姿を消したのであった。
「何て可愛い娘なんだろう」
 グラウコスはその娘を見て心を奪われたままであった。そして次の日もその入江に来た。そして彼女を見るのであった。
 やがて見るだけで飽き足らなくなってきた。声をかけて自分の想いを告白したいという望みを抑えることができなくなってきたのだ。そして彼はそれを抑えなかった。
「ねえ君」
 ある時彼は陸に上がろうとする彼女に声をかけた。
「誰?」
 少女はまず辺りを見回した。だがそこには誰もいなかった。
「ここだよ、ここ」
「ここ?」
 声のした方を見た。見れば海の方からである。
「そう、ここだよ」
 そこに彼がいた。見れば青い髭を生やした全身鱗だからけの男であった。
「ひっ」
 少女はその姿を見て思わず身を引いた。だがグラウコスはそんな彼女にさらに声をかけた。
「そんなに怖がらないで」
「けど」
 少女はまだ怯えたままであった。
「怖がる必要はないから。僕は君とお話がしたいんだ」
「お話を?」
「うん。僕はグラウコスっていうんだ。知っているかな」
「ええと」
 彼女はそれを受けて考え込んだ。
「確か海の神様ですよね」

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