第八章
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」
彼にとっては真剣な話である。だがそれは決して言わないし言えはしない。彼は本等に今一世一代の勝負をかけようとしていたのであった。
「じゃあ何処で?」
「それはちょっと」
「生徒指導室なんかどうかしら」
「えっ」
「そこなら誰もいないわよ。どうかしら」
「それはそうですけど」
これは意外な言葉だった。だがその通りだ。あの部屋なら誰にも何も言われないし二人きりになれる。康則にとっても思いもよらぬ提案であったがいい提案でもあった。
「じゃあそこでいいわよね」
「はい」
康則は頷いた。そして二人はそのまま生徒指導室に入った。その中にある机に向かい合って座った。
「で、話って何かしら」
「はい」
言おうとする。だが胸の鼓動が高まり、緊張してきた。それをどうにも止められなかった。どうにも言えそうにない。それでも言わなければならない。しかし勇気が出ない。どうしても。言おうとしても言えないのだ。それがどうにももどかしいのであった。
先生はそれに気付かない。どうもこうしたことにはかなり鈍感であるらしい。普通に何か悩みがあって来たのだとばかり思っていた。確かに今康則は悩んでいる。しかしそれが自分に向けられたものであるとは思わなかったのである。
「先生、転勤するんですよね」
「ええ、そうよ」
その話かと思った。それまで少し緊張していた先生は急にリラックスした様子になった。
「今日でこの学校の行事とかは終わりなのよ。来年度からは鷹田高校でね」
「やっぱり」
「馬場君達ともお別れよね。君達とは何かと色々あったけれど」
「そうですね」
「悪ガキで。困ったわ」
先生はくすりと笑ってこう言った。
「手を焼いたしよく怒ったし」
「はあ」
確かに。康則はその中でも一番怒られたくちであった。
「けど。それももう終わりね」
「そうですよね」
「それ聞きに来たのかしら」
「はい、あと」
「まだあるのかしら」
「・・・・・・・・・」
康則は言葉を出せなかった。どうしても言えない。それでも言わなくてはならない。それはわかっている。どうしても言えなくてもだ。それでも言葉が出ない。
「何?」
「はい」
覚悟を決めた。遂に言おうと決めた。
「それで先生」
「ええ」
「付き合ってる人とか。います?」
「?いないけど」
こう答えるのは予想していた。まずは第一段階は越えた。
「欲しいけれどね」
「じゃあ。俺じゃ駄目ですか?」
「えっ!?」
先生には最初この言葉の意味はよくわからなかった。
「あの、馬場君」
そして康則にあらためて問う。
「今何て」
「俺と。付き合ってくれませんか」
隠さずに直接言った。
「誰もいないのなら。もうここの先生じゃなくなるし」
「・・・・・・・・・」
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