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青い春を生きる君たちへ
第3話 平手打ち
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なく座っている小倉の体重に呻き声を上げる直斗の後頭部が小倉には見えた。実に哀れだった。怒りなど、これっぽちも湧いてこなかった。
小倉はおもむろに、髪の襟足が伸びた直斗の後頭部をひっつかむ。直斗の顔が反らされ、前を見る形になる。


(……でも、ま、このままバイバイするにも、ちょっと惜しいかな)


小倉には怒りはない。闘争心もない。気持ちは実にフラットで、冷めきっていた。
が、ある一つの感情が、どす黒く小倉の中を満たしていった。それは、嗜虐心。


「あがっ!」


小倉は掴み上げた直斗の顔を、思い切り地面のアスファルトに叩きつけた。直斗から苦しげな声が漏れるが、それに躊躇う事なく、再び小倉は直斗の顔を掴み上げ、叩きつける。拳で殴るより、余程効率のいい傷つけ方。直斗がバタバタと暴れ始めるが、小倉は直斗の上からどく気はなく、何度でもその顔を地面に叩きつけた。


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「小倉、入ります」


高校に入学してほどない頃、小倉は寮内のある部屋に呼び出された。待っていたのは、自分と同じ坊主頭の、しかし体の幅が比べものにならない先輩。120人みんなが坊主頭で揃えると、それぞれの見分けなど簡単にはつかない。だから練習着の背中に大きく名前を書くのだが、それでも上級生と下級生の間とでは見分けがつくのだ。鍛え上げられてきた年月の違いは、同じ格好をしていようと勝手に違いを浮き彫りにする。


「小倉、お前、自分のした事分かっとるやろな?」


先輩は怒っていた。背筋を奇妙に曲げて相手を下から睨むような、そんな小細工は必要が無かった。真っ当な姿勢から見下ろされるだけで、小倉は恐怖に足が震えた。


「何とか言わんかい!」


無駄のない動きで、先輩の拳が腹にめりこむ。小倉は後ろに吹っ飛び、背中から壁に叩きつけられた。体の痛みより、これからどんな目に遭わされるのかという、恐怖の方が勝っていた。何か返事をしなくてはならない、しかし、小倉の口はパクパクと動くばかりで、何の言葉も出てはこなかった。



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「おい!何をしてる!」


気がついたら、小倉は両手をジャージ姿の教師に引っつかまれて、直斗から引き離されていた。直斗は上から小倉がどいても、起き上がる事ができず、顔を押さえて呻いている。アスファルトには、血がこびりついていた。


「お前!前の学校でした事に懲りずにまたウチでも……」


小倉を取り押さえたのは強面の体育教師だった。その後ろに田中が居るという事は、田中がこの事態を報告し呼んできたのだろう。田中はまさか
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