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甘い毒
第一章
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満ちていた。
 それが洋香の香りだった。彼女はいつもその身体に甘い香りを漂わせている。それが香水によるものなのか彼女自身のものなのかはわからない。だがその香りが常に漂い、潤一を魅了しているのは事実であった。
「ベッドはこれでよしね」
 洋香はベッドを移動させ、それまでベッドがあった場所にテレビを置いて満足そうに言った。手は細くて長いが案外力があるように思えた。
「テレビ、一人で動かしたんですか?」
 潤一はそれを見て尋ねた。
「そのテレビを」
 見れば大きくてかなり重そうである。だが洋香はそれを一人で持って動かしたのである。潤一が言うのも無理はなかった。
「コツがあるのよ」
 彼女はこう言う。
「それさえわかれば一人でもいけるわよ」
「そうなんですか?」
 そうは言われてもにわかには信じられない。
「腰を使うのよ」
「腰!?」
「ええ。ほら、普通は手で持とうとするでしょ」
「ええ、まあ」
 潤一は従姉に答えた。
「腰を使ってそれで持つのよ。これだとギックリ腰にもならないわ」
「へえ」
「って知らなかったの?」
 驚きの顔を見せる潤一に問うた。
「ええ、今まで」
「ちょっと、私の後輩なんでしょ?」
 洋香はその言葉を聞いて苦笑いを浮かべる。実は彼女の通っていた学校に今潤一は通っている。県内でも有数の進学校として知られている。彼がこの学校に入ったのは彼女への憧れのせいだ。だがそのことは決して言わない。
「しっかりしてもらわないと困るわ」
「すいません」
「謝ることはないけれどね。それでね」
 彼女は話を変えてきた。
「そっち手伝うわ。それが終わってからケーキにしましょう」
「わかりました」
 こうして二人は模様替えを一段落させて下に降りた。そしてケーキと紅茶を楽しみはじめた。潤一に出されたのはチョコレートケーキであった。話通り。
「どうぞ」
「はい」
 テーブルに座り差し出されたケーキを見る。外観は普通のチョコレートケーキであった。
 だが味は。全く違っていた。
「あっ」
「どう、美味しいでしょ」
「はい、凄く」
 甘い。そしてその中に上品さもある。チョコレートの味も程よい。かなり美味しいケーキであると言えた。
「これ、何処のケーキなんですか?」
「何処のか知りたいの?」
「ええ、よかったら」
「私が作ったのよ」
「えっ!?」
 それを聞いてまた驚いてしまった。
「洋香さんがですか」
「そうよ。驚いたみたいね」
「ケーキ、作れたんですね」
「ええ」
 ここで洋香は答えてにこりと笑った。
「そうなのよ。実はケーキの他にも色々と作れるけれどね」
「そうだったんですか」
「こう見えてもお菓子作るのは好きなのよ」
 潤一を見て言う。
「それでね。よかったら」

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