明け方の少女の心に
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唸るような声が投げ返される。
「あたしはあんたみたいなバカ嫌いじゃないけどねー」
直線的な感情の動きが猪々子みたいだから。華雄も似たようなのだったけど、サッパリした性格のこいつらは嫌いじゃない。
「バ、バカっていう奴の方がバカだ!」
「ほらー、そういうとこ可愛いもん♪」
「気持ち悪いからやめろ!」
「やーだねっ! 惇ちゃんはかぁいいねー♪」
声と共にべーっと舌を出すと、夏候惇は不快が極まったようでぶるりと身を震わせた。
「……霞と徐晃を足して二で割ったような奴だな」
「あれ? 計算とか出来るんだ! すっごーい♪」
「……っ」
思ったまま挑発の言葉を投げれば、ビシリ、と彼女のこめかみに青筋が立った。
あたしの周りではバカ共が戦いながら噴き出してクスクスと笑っていた。
――怪我の一つくらいさせたいんだけどなー……
余程屈辱なようで、わなわなと震えている夏候惇を見ながら何処を狙うか思考を廻す……
「せっかく褒めてあげたのになんで震えてんのー? あ、嬉しくって感極まっちゃった? あんまり褒められ慣れてないんだね……可哀相に……」
口からつらつらと挑発を投げながら。
隻眼が怒りに燃えていた。睨み殺されそうな程に。それでも仕掛けてこないって事は、何かを狙ってるらしい。
――やっぱり猪々子とは別種か。降った後にどうするか後で考えないと。
策が為った後にどうするかも問題だった。曹操軍の周りで安全そうな場所は無く、逃げる時は……秋兄の部隊の撤退戦術を使わせて貰おう。
「……貴様には借りがある」
「借り? 何さ」
また挑発を投げようとするも、夏候惇が不思議な発言を放った。
隻眼は相変わらず怒りに燃えている。ただ、ほんの少しだけ、わけの分からない感情が混ざっていた。
思いつくのは夏侯淵の怪我だが……腕の一本を持っていかれるんだろうか。お互い痛み分けだと思うんだけど。
「……妹の澱みが晴れたようでな。先に一つ、感謝を」
戦の最中だ。周りでは人が死に、怒号が飛び交っている。だというのに、夏候惇は一寸だけ目を閉じた。
余りの異常さに、あたしの思考が停止してしまう。あたしの前で、どんな手段も使うあたしのほん目の前で、彼女は隙を見せたのだ。
愚かしい失態。愚の骨頂。戦場で戦う武人として有り得ない事だ。なのに、動けなかった。もう夏候惇は目を開けてこちらを見ていた。
その間に、城門の上から声が投げられた。好きに暴れていい、と。
「これですっきりと……」
細められた隻眼は鋭くて、歪んだ口元は楽しげで、
「貴様の事をぶちのめせる!」
脳髄の奥が甘く軋んだ。
心に引っかかった僅かな小骨を、彼女は取り除いたのだろう。今か
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