明け方の少女の心に
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となって行く。
さすがに東西の二面までは準備出来ていないが、正面のこの場所に秋斗が居座れば、誰かしら将が釣れるのは必然。落とし穴の策を使えば十分の成果が得られる。
東西に関しては問題ない。内側で待ち受ける小型投石器と曹操軍の兵士、そして霞や凪、沙和等の将が相手取れば一万の兵がごり押しで突破しきるには不足であった。
逃げるか否か、通常ならば逃げる所であろう。明は即座に撤退の指示を出したのか、走り行く伝令の兵士が幾人か見えた。
しかし城門が開き、突撃を仕掛けている状態で全ての軍を撤退させては後背を突かれて甚大な被害を被る。官渡に三万程度の兵数で攻め入った時点で……完全な敗北を喫する。
「ふふ、中々面白い。受け手でしか出来ない策ね」
「一回キリしか使えねぇよ。こんな奇策は」
「その一回を成功させてしまえばいい。そうでしょう?」
「違いない。ま、これで……」
城壁の上から見下ろし、彼はにやりと勝利の笑みを浮かべた。
「紅揚羽は予定通り捕えられるわけだ」
鎌を振り、城門から出撃する曹操軍の兵士を薙ぎ払う明が其処にいる。張コウ隊が近づこうとするも、上から矢を射られてどんどんと数が減って行く。
人が寄って立つモノは大地。いつ崩れるか分からないとなれば、焦りと不安が行きかうモノ。乱戦に等しいこの状況では、練度が高く、制空権を得ている曹操軍に敵は居ない。
ならばこの機で出るのは誰がいいか。決まっている。彼女を捕えられる実力のモノが出ればいい。
「ふむ……そろそろ出しましょう。夏候惇に伝令。紅揚羽を捕えよ、と」
御意、と声を残して走って行った伝令を見送って、彼はまた、城壁の外を覗き込んだ。
じ……と見やれば幾多の兵が彼女の刃で命を散らしていく。頸が一つ舞う度に、彼の心が僅かに軋む。
――斧が欲しい。
ふと、彼はそう思った。あの赤い髪を宙に舞わせたいと、乖離した脳髄が叫びを上げる。
誰の記憶か、誰の心か、誰の想いか、既に理解してはいた。
自分と友達であったと聞く白馬の片腕の怨嗟の記憶。曖昧にノイズが入る絶望の思い出は、紅揚羽への殺意に塗れている。
大きく息を吸い、自分の背にぶら下げている長剣を握った。そうする事で、自分が誰かを実感出来る。他人の記憶等に引き摺られてやるものか。
「あなたも出してあげましょうか?」
背中に掛かった声に振り向くと、測る眼差しと王の視線。その横では、泣きそうな顔で朔夜が見ていた。
「……いや、いい。俺は出ない。元譲に全て任せるさ」
一寸だけ目を瞑って心を落ち着かせれば、乖離した心が薄れて溶けて行く。ゆっくりと目を開いて、彼は二人に優しく微笑んだ。
「そう……ならしっかりと目に焼き付けなさい。あなたは戦争の醜悪さを傍観者さ
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