明け方の少女の心に
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官渡の戦いは軍師達によって描かれる“連環計の戦場”になっている。互いに欲しい結果を得る為に膨大な予測を立てて駒を進めてきて、今から本当の計略が始まるのだ。
桂花個人にとっても“此処まではいい”、問題は“此処から”。
――あんたは袁家の眼を欺く為に、一番やっちゃいけない事をやる。本当なら絶対にしない選択を取る。それに気付いてないんでしょう?
ワガママだ。桂花も分かっていた。
袁家が、否、袁紹が勝つにはこの策しか無い。
例え兵数が多くとも、白馬義従が動いた時点で補給路の確保は絶望的になった。
神速と白馬義従の二つの機動特化部隊を使えば輜重隊の襲撃は容易になり得る。烏巣、陽武に多くの糧食を集めているとしても、あらゆる状況の為に対応しなければならないが故に追加を求めるのは当然。互いに物資強奪狙いの動きが増えるだろうが……白馬を取られている時点で袁家側は長期戦略を取るには不利。早期の戦終結は確定的となった。
曹操軍の軍師達、そして桂花と雛里が選んだ狙いは物資補給路の断絶による戦場の短期化。それによる袁紹軍の思考束縛と行動の限定。その為に、敢えて白馬も延津も取らせて、袁紹軍の本隊を官渡付近の陽武まで引き摺り込んだ。
結果は見ての通り、簡略的な袁紹包囲網が出来上がりつつある。朔夜が蜘蛛の巣と言ったのも頷ける。河を越えた時点で、網に掛かっていたのだから。
――外部政略によって袁紹は引くことが出来ない。袁家大本は、勝てなければ袁紹をこの戦で切り捨てる。華琳様にしても、袁紹だけは殺さなければならない。だから夕は……袁紹を助ける為に明を使う……使ってしまう。
桂花は両手で顔を覆った。泣きそうになるのを必死に堪えて、震える身体を抑えようともせず、思考を廻し続けていた。
――ダメ、ダメなの。それじゃ……届かない。この大陸に覇王の器と誇りと矜持を世に示すには、華琳様は夕の誘いに乗らざるを得ない。けど……
喉が渇いた。お茶が欲しい、と思っても馬車にはもう無い。横で鞄の中に仕舞われている魔法瓶は……既に中身が空だった。
早鐘を打つ鼓動は胸を押さえても静まらない。失ってしまうかもしれない恐怖が、心身を覆い尽くしていた。
――明をあんたの元から離すんじゃなくて……“あんたも一緒に出て来なくちゃならなかったのに”!
夕なら、きっとそういった選択をすると思っていた。明だけに任せずに、麗羽と二枚看板を切り捨てる事も視野に置きつつ、確実な勝利の為に覇王と相対するであろうと思っていた。
――これじゃ……あなたのこと……
ぽたり、と涙が落ちた。震えつづける両の手の隙間、誰にも見せない涙が零れた。
「……っ……まだ、まだ諦めない。あのバカを、捻くれ者の大バカ女を……」
諦めるにはまだ早い。自分が欲
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