第2話 購買で
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「良いから、メロンパンを買え」
「……どうして?」
「どうしてもだ」
小倉はできるだけ、ドスの効いた低い声で、顎を引いて言った。前の学校で身についたモノの言い方だったが、この孤高の少女にはどこまで通じるか。高田は、自分を睨む小倉と、その後ろでキーキー騒ぐ瀬尾とを両方見て、もう一度、今度は大きく息をついて購買のオバさんに向き直った。
「すみません。やっぱりメロンパンで。」
「あいよ」
購買のオバさんからメロンパンを受け取った高田は、代わりに小銭を渡して踵を返した。その場から離れていく高田の背中と、その手の中のメロンパンを「ああ〜」と間抜けな声を出しながら見送った瀬尾は、勢いよく小倉の方を振り返った。
「ちょっとアンタ……勝手に何してくれたのさ」
くるくるとロールした髪先をイジり、斜め下に顔を向けながら瀬尾は小倉を睨む。ああ、こういう目線の使い方する奴、居たなあ。小倉は不意に前の学校の事が思い出されて、懐かしくなった。
(こういう、いかにもな格好、いかにもな仕草をする奴ほど、大した事ねえんだよなあ。元気かな、あいつ。ちょっと可愛がりすぎちまったかもしれねえけど)
「ちょっと、アンタ、聞いてんの?何笑ってんのよ気持ち悪い」
ずいっと小倉の方に一歩踏み出して、瀬尾は目を細めて小倉を睨んだ。さっきより近くで見た瀬尾の顔は、やたらと化粧が濃かった。小倉はもうどうにも笑いをこらえ切れなかった。4限の前に騒いでいた連中と、こいつも一緒だ。男と女が違うだけだ。髪型と服装と、後は化粧をどうにかしてやりゃあ、こいつらが普段見下してる「隠キャ」共と何も変わらない人間の出来上がりだ。何も特筆すべきところのない自分を必死に飾って、虚勢を張ってるだけの話だ。
「何とか言えよコラァ!」
目の前で瀬尾が怒鳴った。周囲の目がチラチラとこちらに向けられ、所謂「修羅場」というものが出来上がりつつある事が小倉には実感できたが、勝手に高田に手が伸びたさっきに比べれば、実に気持ちは落ち着いていた。
「……へーえ、そういう顔をしたら、今までみんなお前の言う事を聞いてくれたのか?」
「あん?」
「ああ、説明不足だったか?そうやって厚化粧した汚い顔の汚い目を見開くだけで、今までお前の周りの人間はお前の言う事を聞いてくれていたんですかって、質問してる訳よ」
「……ッ」
汚い顔呼ばわりされたのがちょっとこたえたのか、瀬尾は顔を紅潮させて言葉に詰まった。小倉は拍子抜けした。自分から迫ってきたというのに、ちょっと反撃されただけで勢いが萎えやがった。情けない。胸ぐらくらい掴まれるかと思ったのに。張り合いがないものだ。しかし、小倉は続く言葉を止める気も無かった。
「あのねえ、世の中の誰
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