第九章
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第九章
慶祐は本堂から降りてそのまま山を下ろうとする。そして本堂の前でだ。
栄真が前から来たのであった。目と目が合った。
そうしてお互いに会釈をした。それで擦れ違った。たったそれだけだった。
しかしだった。擦れ違ったその後で。友人が彼に言ってきたのであった。
「さっきの尼僧さんは」
「何だい?」
「昨日擦れ違った人じゃないのかい?」
このことを慶祐に尋ねてきたのである。
「あの人は」
「ああ、そうかもね」
朝のことを話すのは気恥ずかしくこう返したのであった。
「確かね」
「そうだったな。何か知り合いに見えたがね」
「僕とあの人がかい?」
「そうさ」
まさにその通りだというのであった。
「何かね。そう見えたけれどね」
「それは気のせいじゃないかな」
ここでも隠したのだった。やはり気恥ずかしかったのである。
「君のね」
「そうかな。だといいんだけれど」
「目が合ったからね。それでね」
「挨拶をしたっていうのかい」
「ああ、そうなんだ。それだけなんだ」
「そうか」
友人はまだいぶかしむ顔をしていた。しかしそれで納得した顔になるのであった。
「それならいいがね」
「それでいいね」
「ああいいよ。しかしあの人は」
「あの尼僧さんだね」
「そうさ。奇麗だね」
感心したような、惚れ惚れしたような顔での言葉であった。
「あれだけ奇麗だとね。どうもね」
「惚れたかい?」
「ははは、それはないよ」
それについては笑って否定する彼であった。
「それはね」
「ないのかい」
「いや、酒は幾ら飲んでもいいがね」
「酒はかい」
「女は別だよ」
語るその顔は崩れていた。心から笑っているのがわかることだった。
「女はね」
「好きなだけ遊ぶというわけじゃないんだね」
「一人でいいんだよ」
それだけでいいというのである。
「生涯の伴侶だけでいいんだよ」
「ほう、またそれは」
慶祐は彼のその言葉を受けてまずは面白そうに声をあげたのであった。
「西洋の風習に染まったみたいだね」
「西洋!?馬鹿言っちゃいけないよ」
西洋と聞くとであった。一転して嘲笑してみせてきたのであった。
「西洋なんかの一夫一妻っていうのはね」
「どうだっていうんだい?」
「あれはまやかしだよ。そう言っていた貴族達なんてお互いに愛人を何人も持って好き勝手し放題の滅茶苦茶だったじゃないか」
「滅茶苦茶だったっていうのかい」
「ルイ十四世を見給え」
かの有名な太陽王の話が出て来た。そのフランスの王である。
「あの王様なんて愛人が何人もいたじゃないか」
「正式な王妃の他にかい」
「そうさ、それこそ数え切れないだけいたじゃないか」
このことを慶祐に言うのである。話す口が尖ってい
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