sceneU バカと塩と生きる知恵
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そう言って代表殿が指さす方を見ると何故か吉井が定食のコーナーに来ていた。
「吉井君は定食でしたか?」
何も買っていなかったはずだけれど…
僕の質問にため息で返す代表殿、つまり否だろう。
「俺が食堂に近づきたくないのは…」
「近づきたくないのは?」
「……明久のな…あぁ言うことをしているのを直接見るのが情けなくてな…」
「あぁ…」
再び彼の方に視線を投げると彼は500mlのペットボトルを手にしていた。そこから彼は備え付けられている塩をまず最初に入れ、次に定食に添えられるサラダにかけるためのドレッシングを少し混ぜ入れ、最後にセルフサービスの水を入れて満タンにし、最後によくかき混ぜソルトウォーター(改)を作り上げた。
「分かるだろ…俺がメシを持ってきていないときでも絶対に食堂では食うまいとしている理由が…」
「えぇ…確かに、すごく衝撃的なものを見せられてしまい…否定しようにも全く材料がありませんね…」
哀愁漂うその光景であった。
しかしまるで熟練の職人が一つの製品を作るかのようななめらかさで全行程を軽々こなした当の吉井は、さも嬉しそうに僕らが先に取っておいた席に駆けていってしまった。
「前に秀吉の奴に見せたときにも同じようなことを言っていたな…決定的なものを見せられて納得したとかなんとか…」
代表殿の言葉を聞きながら、そういえばいつだったか吉井が楽しげに食堂について語っていたことを思い出す。
『食堂っていいよね。家で作るよりも遙かにバリエーション、いやフレーバーが増えるんだよ。一番ノーマルな塩味だとかペッパー風味とかは良いけど…』
(なるほど、あのときに吉井が言っていたのは水の味付けの事だったのか…)
そんな姿を思い出すともう、心の中には驚嘆する気持ちしか残っていない、そのことが一層清々しく感じるけれど…
「姫路さんにお知らせした方が宜しいでしょうか?」
「お前は吉井を殺す気なんだな?」
「いえ、そうでもしないと直らないかと存じます。」
「そうだよな…お前が姫路と談笑しているときにでも明久を突っついてみよう。参謀は何とか姫路に本当ですか、みたいなことを言わせてくれ。うまく行く確率が増えるだろうからな」
「承知しました」
初めて見えた光にすがりつく代表殿の姿に、きっと一年の頃からつきあわされていたのだろう事をうっすらと読みとった僕だった。
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