第六章
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第六章
「相変わらず強いんだな」
友人の酒の強さは知っていた。それは相当なものである。彼は今それを思い出したのだ。
そのことを呟きながら一旦起き上がった。そうして宿屋の浴衣からあの袴に着替えてである。酒を抜く為に外を歩くことにした。
外に出てみると町はもう起きていた。宿屋や店の外であれこれと仕事をしていた。
慶祐はそういったものを見て流石に寺前町だとも思った。その朝の早さをだ。
「お寺は朝が早いからな」
だからだと思いながら足をまた寺に進めていく。そうして仁王門のところに来るとだった。またあの尼僧と出会ってしまったのだった。
今度はお互い顔を見合わせた。先に声を出したのは慶祐だった。
「あっ・・・・・・」
「はい?」
「昨日茶屋におられましたね」
まずはこのことを彼女に言ったのだった。
「そして下登渡にも」
「そうですが」
「そうですか。やはり」
彼女のその言葉を聞いて頷いた。
そうしてそれから。また言うのであった。
「貴女だったのですね」
「貴方は一体」
「旅の者です」
まずはこう名乗った。
「ここに旅に来ている者です」
「そうなのですか」
「そうです。そして」
「そして?」
「今ここにいるのです」
今度はこう述べたのだった。
「ここにです」
「この長谷寺にお参りにですか」
「そうです。それで貴女は」
古い歴史のある、見ているだけで趣きを感じさせる門の前で、であった。尼僧に対して問うのであった。
「この寺の方でしょうか」
「はい」
尼僧は彼の言葉に静かに頷いて答えた。
「その通りです。名前は」
「名前は?」
「今の名前は栄真といいます」
俗世の名前ではなかった。法名を名乗ったのだった。
「それが私の名前です」
「それがなのですね」
「そうです」
またこくりと頷いて答える彼女だった。
「これがです」
「私の名前はです」
栄真が名乗ったのを受けて彼も名乗った。
「加藤慶祐です」
「加藤様ですか」
「はい、京都の大学にいます」
このことも栄真に対して告げた。
「そしてそこで、です」
「学生さんなのですね」
「そうです。それで今は旅でここにいます」
「わかりました」
栄真はその言葉を受けて三度静かに頷いたのであった。
「加藤様ですか」
「様はいいです」
その呼び方については照れ臭そうに笑って返した。
「その呼ばれ方はどうにも気恥ずかしいです」
「ではどうお呼びすればいいですか?」
「お任せします」
彼女に任せるというのだった。
「それにつきましては」
「左様ですか」
「はい、何とてもお呼び下さい」
今度は微笑んで告げた言葉であった。
「そう」
「はい、それでは」
「何と呼んで頂けます
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