第五章
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第五章
「本当に古典と一緒にね」
「存在している場所だね」
「奈良はこういう場所が多くてね」
「多くて?」
「何か嫉妬を覚えてしまうね」
友人はここで苦笑いとなったのだった。
「全く。どうしたものかな」
「そうなのかい。僕は別に」
ところがであった。慶祐にはそうしたことはなかった。それを言われても首を捻るだけであった。彼は本当にそれだけであった。
「何もないね」
「大阪にいたら何もないかい」
「ないよ。大阪は京都は好きじゃないけれどね」
今いる場所についても述べるのだった。
「それでもね。特に劣等感とかはないね」
「君だけじゃなくて」
「対抗心はあるね」
そちらだというのである。
「それは旺盛だよ」
「おやおや、そっちかい」
「けれどここは本当にいいね」
彼の長谷寺への評価はこうしたものであった。
「いいよ、本当に苦労の介があるよ」
「そこまで言えるっていうのは本当に気に入ったんだね」
「ああ、気に入ったよ」
そのことを堂々と認めるのだった。
「ゆっくり回りたいものだね」
「そうだね。じゃあそうするか」
そんな話をしながら今は下登渡にいた。するとであった。
上から一人の尼僧が来た。法衣を着て頭には頭巾がある。若く整った、気品のある顔立ちの尼僧である。彼女は上から降りてきて二人と擦れ違ったのであった。
その尼僧を見てだ。慶祐は言った。
「あれは」
「あれは?」
「さっきの尼さんが」
その尼僧が通り過ぎた方を見ながらの言葉だった。
「ここでも」
「茶店のあの人がかい」
「うん、あの人だ」
紛れもなくその人だというのである。
「間違いないよ、あの人だよ」
「へえ、ここでも擦れ違ったのかい」
「奇麗な人だ」
既に尼僧は下に降りていって後姿が見えるだけだ。だが彼はその後姿を見ながらまた言ったのである。
「本当に。しかも気品もある」
「僕は今はあまり見えなかったけれどね」
「僕は見た」
彼はというのだった。
「間違いなく。いや、本当に奇麗な人だ」
「そんなにかい」
「そんなにだよ。ああした人がこんなにいるなんて」
「おいおい、お寺だけじゃなくて女性もかい」
友人は尼僧にも見惚れることになった彼に思わず笑って返した。
「また気が多いね」
「そう言われても仕方ないかな」
「そうだよ。お寺を見ればそれでいいじゃないか」
これが友人の考えであった。
「それだけで充分じゃないかい?」
「それはわかっているけれど」
それが本来の目的だからだ。しかし目的は目的でしかない。そこに何がついてくるのかはまた別の問題ということであるのだ。それが今の彼だった。
「本当にあの人は」
「行こう」
友人は慶祐を急かしてきた。
「本堂に向か
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