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尼僧
第三章

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第三章

「どうしてもね」
「そういうものかな」
「そうだよ。けれどさっきの人はね」
「違ったのか」
「うん、かなり違うね」
 彼はまた言うのだった。
「あの人はね」
「そうだったのかい」
「いや、本当に奇麗な人だった」
 慶祐は再度述べた。
「僕より少し年上だけれどね」
「長谷寺だから尼さんに会うのも不思議じゃないしね」
「そうそう、何といっても女人高野だしね」
 それに尽きた。ここは何といってもそれなのだ。尼僧を見るのも当然だ。実際に二人は今までも尼僧を何人か見てきているのである。
 そんなことを話しながら町を歩きそうして今度は長谷寺に向かう。今度は山を登った。
 その山はだ。またかなりのものだった。
 慶祐は山を登りながら手拭いで顔を拭き。そうしながら友人に言うのだった。
「山全体がなのかい」
「高野山もそうじゃないか」
「それはわかってるさ」
 これは彼もわかっていることだった。しかしなのである。
「けれどね。それでもね」
「辛いかい」
「山には慣れているつもりだったさ」
 こう言いはした。
「けれど。それでもね」
「京都にはこれだけの山はないからね」
「僕の地元にもないよ」
 そこにもだというのだ。
「僕の地元は大阪だけれどね」
「大阪だとまともな山なんてないんじゃないのかい?」
「いや、少し行けばあるんだよ」
 それはあるのだという。
「和泉の方にはね」
「堺の南の方はかい」
「そこの山を登って遊んだことは多いけれど」
「これだけの山になると」
「ちょっとないね」
 まだ汗を拭いている。そうしながらの言葉だった。
「全く。確かに修業の場としては合ってるだろうけれどね」
「普通の人間が登るには辛いね」
「辛いよ。これは」
「僕はそれ程でもないけれどね」
「そういえば君は」
 慶祐はここで友人のことに気付いた。見れば彼は涼しい顔をして汗もかいていない。その穏やかな顔で彼の横にいるのである。
「平気みたいだね」
「僕の生まれはあれなんだよ。若狭の方でね」
「若狭かい」
「ほら、海軍の港ができただろう?」
 今度は海軍が話に出て来た。慶祐の頭の中に海のその青が浮かぶ。それは山の緑からは全く想像もできないし当てはまりもしないものであった。
「舞鶴に」
「あそこの生まれなのかい」
「そうなんだよ。あそこはまた凄い山でね」
「じゃあこの山には」
「慣れてるよ」
 そうだというのだった。
「もうね」
「つまりあれか」
 慶祐は彼の話を聞いてすぐに察して述べた。
「子供の頃から普段から登っていると」
「そういうことだろうね」
「そうか。所詮僕はな」
「大阪だからかい?」
「ああ、山には登りに行くものだった」
 これが彼なのだった。

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