魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり3
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傷が刻まれた。そこからも血の代わりにどす黒い何かが噴き出す。
≪ごめんなさい。あなたからパパを奪ってしまって……≫
プレシア・テスタロッサは夫と離婚している。ふとそんな事を思い出した。そして理解する。やはり、これはプレシア・テスタロッサの声なのだと。
「戦乙女の剣閃よ!」
七つの雷刃が、剣の煌めきのように虚空を切り裂き、その怪物の身体へと直撃する。それでも怪物の動きは止まらない。だが、
≪あなたはママが守るから。ママがきっと幸せにしてあげるからね≫
刻まれた傷からは再び『声』が噴き出す。今すぐに耳を塞いでしまいたい。そんな衝動に駆られていた。その衝動をねじ伏せるようにして叫ぶ。
「御神光、どけ!」
デバイスを突きつけ、魔力を解き放つ。
「ブレイズキャノン!」
制御を考えず、ただ威力だけを優先して解き放ったその魔法は怪物の横腹に突き刺さり、その巨体を僅かに揺るがした。その隙に、次の魔法を唱える。
「スティンガーブレイド!」
放たれた何本かの魔力刃が怪物の身体を斬り裂き、突き刺さる。しかし、魔法が通じた事に安堵を覚える暇もなく、再び『声』が噴き出してきた。
≪アリシアが死んでしまった。何であの子が死ななければならなかったの?≫
それはプレシアの嘆きだった。それは文字通りの呪詛となって心を蝕んでいく。どんな攻撃よりも鋭く深々と。元々魔力は限界だったが――なけなしの気力まで削ぎ落とされていく。膝から力が抜けそうになる。デバイスを酷く重く感じた。
「鎧騎士の氷槍よ!」
御神光が放った氷撃の魔力弾が怪物の身体を凍てつかせ、粉砕する。
≪あの事故は、私の責任? 貴方達の無茶な要求のせいでしょう!?≫
プレシアの嘆きが世界を震わせる中で、初めて思い知った事がある。
≪貴方達が、貴方達さえ理解してくれたならこんな事にはならなかった!≫
別に自分は戦闘狂ではない――が、職務のために戦う事に抵抗はなかった。それが正義だと信じているから。だから、今さらになって思い知った気がする。自分が世界の真理だと思っていたものに亀裂が走った。その音を確かに聞いた気がした。
≪私が、何で私があの子を殺さなければならないの!?≫
自分達が正義だと掲げているものなど、所詮は悲劇の後始末でしかないのだと。
「……殺したって?」
「アリシアさんが死亡した事故の責任は全てプレシア女史が負わされたの……」
なのはの呟きに、艦長が答える。少しだけ視線を逸らして。
ああ、そうだ。彼女にとって責任を取らされるという事は、研究者としての道を断たれるとかそんな些細な事ではなく、自分の手でたった一人の愛する娘を殺したのだと認めさせられる事だったのだ。
≪いいわ。あなた達が私から娘を奪うというなら……私は必ずあの子を取り戻す。絶対に、絶対に!
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