魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり3
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て、ジュエルシードの制御は明らかに荷が勝ち過ぎていた。この魔石が供物に近しい性質でなければ、リブロムの補助があったとしてもこうまで上手くは行かなかっただろう。はったりとしては、管理局に対してもプレシアに対しても充分に効果を発揮したようだが、その代償として消耗した魔力は馬鹿にならない。追体験により取り戻した量を考えてなお、消耗量の方が圧倒的に上回っている。どこからか魔力の供給を受けているリンディに押し付けていなければ、早々に力尽きていたはずだ。
(さて、と……。今の俺にこの怪物を捌き切れるか?)
この魔物はどれほど低く見積もったとしても、魔物化したモルガンに匹敵する――つまり、あの時点でも間違いなく歴代の魔法使いの中で最強の一角に君臨していたはずのリブロムとその相棒ですら死にかけた怪物だ。
一方の自分はと言えば、魔力は今さら言うに及ばず、刻印や代償刻印の力も在りし日の半分程度も取り戻せていない。もちろん供物や刻印の性能は恩師達の時代など全く比較にならないほど圧倒的に向上している。しかし、自分が受け継いだ『力』は――その高みに至るための土台は彼らが旅を終える頃にはすでに完成していたのだ。
その『力』の担い手である今の自分は、あの時のリブロムに遠く及ばない。いわば土台が揺らいでいるような状態である。そこに加えて、体力と魔力の消耗も深刻だ。あの魔石を制御するしない以前の問題として、今の今まで衝動に任せて暴れ回っていたのだから。
(随分と懐かしいな。この感覚は)
魔法を放てる回数にはすでに限界がある。まるで、最初期の――旧世界の供物を使っていた頃と同じだ。限られた力の中で、目の前の魔物を排除しなければならない。
「―――ッ!」
声にならない叫びと共に、哀れな魔物が迫りくる。彼女の境遇に憐れみを覚えない訳ではないが――今は全てを忘れ去る。魔物と対峙する上で、その『声』に呑まれるのは死を意味する。余計な感情は排除し、代わりに魔力を全開にする。
右腕に刻まれた――そして、心臓に打ち込まれた刻印に火が灯り、殺戮衝動が新たな獲物を……本当の獲物を前にして猛り狂う。その衝動をそのまま破壊の力に転じるべく、魔力を練り上げる。
「斬り裂け!」
八つの鉄風車を纏めて叩きこむ――が、それは全て雷の蛇に払いのけられた。汎用性は高い半面、重さに欠ける投擲魔法では少々分が悪いらしい。先手を強引に奪われ、舌打ちしながら間合いを開く。だが、それが失敗だった。空間を無視して、雷の大蛇が――その怪物の両腕が襲いかかってくる。そいつに肩口を少し食い千切られた。もっとも、この程度なら傷のうちにも入らないが――
「チッ!」
空間を跳躍する攻撃は予想しておくべきだったか。空間を無視し自由気ままに蠢く大蛇を見やり――この期に及んで思ったように動かない自分に舌打ちをした。
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