道化と知りつつ踊るモノ
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だよ、まったく」
抗わざるを得ないから、苛立ちと喜びの相反する感情が同居する。
「あなたに決まってるじゃない」
「そういうとこがだなぁ――」
そのまま、華琳がため息をついてやれば、彼は言葉に詰まった。
――また……私はこの男のやり方に巻き込まれて……はぁ……。
呆れのため息を心に一つ。
いつもペースを乱すこの男は、自分にとって一番の敵だと自覚した。
苛立ちがあるから、断じて楽しくなどない会話だと思っていても、無意識的にその流れを自分も作り出していたのだろう……そう気付いてしまえば、自分の変化を受け入れるしかなかった。
「気分が下がったわ。どうせ店長の所で琥珀飴を補充したんでしょう? 献上しなさい」
「お前さんも持ってるだろうに……」
「あなたが献上する事に意味があるのよ」
「ダメだ。頑張ってた奴等に配るんだから一つもやらん」
「却下。自分が食べる分も持ってきてるのは分かってるのよ? 意地っ張りに対する罰」
「意地張ったら罪ならお前さんも――」
他愛ない会話だ。勝ち負けと意地に拘る子供のやり取り。それが随分自然に思えて、心がささくれと平穏の二律背反を描いてしまう。
華琳はもう、この目の前の男を認める事にした。
自分と同じ未来を思い描いているのなら、脚を止めない限り……並べるなら並んでみるがいい、と。
――頼りはしない。預けもしない。寄り掛かりもしない。けど隣に必死で追い縋るくらいは許してあげる。だから……雛里の心を救い出して尚、黒麒麟を求めなさい、道化師。そのまま――――
壊れてくれるな、と願いながら……昔の敵も求めている。
認めているくせに従わない矛盾への否定は……自分を認めろというワガママのカタチだった。
自分が正しいと、捻くれたままで肯定してくれるモノなど今までいなかった。
王と王佐とは違うおかしな関係。さもありなん、彼が求めているのは自分だけの願いで、華琳の為ではないのだ。
黒麒麟と右腕の関係に似ているがそれとも違う。曖昧ではっきりとしない自分達の関係は、立場がどうあれこうなるのだろうと予測に容易く。
――欲しかったモノは手に入らなかった。でも面白いモノが手に入った。イラつくけれど、確かにこの下らないやり取りは楽しい。
矛盾だらけの感情のハザマ、華琳は自分が浮かべている緩い微笑みを抑えようとはしなかった。
――ホント……敵わないなぁ。
そんな彼女と接する事が、憂いに沈む彼の心を明るく照らしているとは、彼以外誰も知らなかった。
†
再び官渡に向かう袁紹軍の数は三万。先陣に立つ武将はただ一人、張コウのみ。他のモノは後陣にて待機する、と軍議では決定が下った。
た
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