道化と知りつつ踊るモノ
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来ない。それでも作りたい世界があって笑って欲しい人が居るから……正解と信じて進むだけ。
「泥濘にのた打ち回らせ、汚物と屈辱と怨嗟に塗れさせ……袁家には絶望を与えよう」
すらすらと口から出た彼の言葉には少しだけ憎しみの色が混ざっていた。
何か思い出したのか、とは自分から言わないのなら聞くつもりも無く、もはやこの戦の事は語るまい……そう決めて、華琳は前に向きなおした。そっと、微笑みを浮かべて。
「あなたは黒ね」
「……ゆえゆえにも言われたよ。お前さんとあの子の為の黒だってな」
「なら黒き大徳、と呼ばれるに相応しい。でも……やっぱり大嘘つきよ」
流し目は鋭く妖艶に。獰猛なアイスブルーの輝きに、彼は目を奪われた。
黒麒麟ならどう返すだろうか……など考える間もなく、桜色の唇が吊り上る。
「戻らないなら大嘘つきの最初の演目を特等席で見物させて貰うわ」
「戻ったら?」
「私の愛する臣下達や雛里達、そして黒麒麟の身体を騙し切って耐える事など、あなたや黒麒麟には出来ないでしょう?」
浮かぶのは信用と自信。逃がすつもりもなく、逃げるとも思っていない。
黒麒麟の身体は仁徳の君に怨嗟を宿した。これで彼を支えていた全てが敵になってしまうのだから、黒麒麟が戻って裏切ろうとしても、嘗ての強さは得られない。
言われて自嘲気味に喉を鳴らす彼を見て、華琳は前に目を向ける。
「頭の中がイカレてたら分からんさ」
「安心なさい。最悪の場合は私がこの手で――――」
――殺してあげる。
殺意の欠片も含まずに紡がれた言の葉。彼にとっての一番の救いで望みなのだろうと理解しているから。
人としても、王としても、華琳は彼の心の汲み方を間違わなかった。
安堵した表情になった秋斗は優しく微笑んだ。
「ははっ、やっぱり怖ぇな。覇王様」
「怖いと感じるなら大人しく跪きなさいな」
冗談交じりに挑戦的な眼差しを向ければ、彼は悪戯っぽく舌を出す。
子供のようなその笑みは、先程まで暗く落ち込んでいたのが嘘のよう。相対するに相応しかった古き龍と被り、華琳の胸が僅かに弾む。
「やなこった。跪いてちゃあ出来ない事があるんでね。何より……守られてなんかやるもんかよ」
同時に苛立つ。対等になろうとしているわけでは無いが、守るべきモノとして見ている秋斗の在り方に。
これは意地だ。守る側、守らせる側の譲れない矜持。どちらも引く事は無く、
「春蘭に叩き斬って貰えば意地っ張りも直るかしら?」
「あいにく死んでも直らんだろうよ。諦めてくれ」
どちらも誰かに頼るのが嫌で仕方なく、それが大切と分かっていても、
「私は諦める事が一番嫌いなの。大人しく私に守られてなさい」
「はっ、どっちが意地っ張り
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