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乱世の確率事象改変
道化と知りつつ踊るモノ
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だ、一人の男だけは烏丸から引き抜いた兵との連携関係上、烏巣に移動済みであった。

「クカカッ」

 一つ離れた陣幕の中。辿り着いたその場所で、男は一人嗤っていた。自分を追い詰めた女達を、絶望の淵に落とせると確信して……。
 内に宿す感情は憎悪か、怨嗟か、嫉妬か……どれも、否。
 心に湧き上がるのはただ愉悦。
 一縷の希望に縋りつき、針の孔を通すようにひた走ってきた彼女達。袁家という泥沼で足掻いて来た彼女達。
 やっと抜け出せると思ったその場所で、最期の最期に絶望の海に突き落とされる瞬間……それこそが、その男が好きで好きで仕方ない甘美な果実。

「バカだなぁ……顔良よぉ。助けたいなんて思わなけりゃ……俺にバレなかったのに……クッ、アハハハハ!」

 自分が生き残らなければ意味が無い。この戦の敵は、男にとっては自分以外の全てであった。
 たった一人で全てを利用して戦っていたその男は、漸く、自分が生き残れる道を掴みとった。

「曹操に勝っても、張コウと田豊が死なねぇと俺が殺されちまう……」

 トン……トン……とこめかみを指で軽く叩きながら、男は舌舐めずりを一つ。机の盤上の駒を一つ進めた。

「人形が負けても、張コウと田豊を配下に加えられたら俺が殺されちまう……」

 斜めに一つ、横にも一つ、幾多の駒が揃う盤上で、一手一手と進めて行く。ピタリ、と止めたその時には、一つの駒だけが生き残っていた。

「なら……曹操に勝った上であの二人を殺せりゃいいんだ。これで全ての状況は整った。後は……お前が踊ってくれるだけでいいぜぇ……張コウよぉ」

 下卑た笑い、と誰もが言った。そんなモノは気にもならない。言いたい奴には言わせておけばいい、と。

「甘い蜜を吸って踏ん反り返ってる上の連中も、イカレなくせにあまちゃんなクソアマ共も、お綺麗で生温い女共も……みぃんな、俺が使ってやんよ」

 その時を想えば、耐えがたい絶頂の愉悦が身を支配する。
 これこそが人生の楽しみだと、引き裂かれた笑みに映し出されていた。
 蹴落とす感覚は心地いい。陥れる瞬間は脳髄が蕩けそう。
 他者の絶望の瞬間を嗤って、嘲笑って、哂って……足掻く姿に腹が捩れる。

 楽しいからいい。面白いからいい。この女優位な世界で見下されてきた郭図にとっては、彼女達の絶望こそが楽しみで生き甲斐であった。

「踊れよ赤い道化。お前に大事なもんは救えねぇ。足掻けよ黒い道化。お前の大事なもんは……クカッ、もう……ねぇよ……アハハハハハッ!」

 ひらりと、郭図は楽しげに報告書を手に取った。上層部と共に内密に飼っている影からの報告は、一人の少女が知れば絶望に堕ちるモノ。
 其処にはこう書かれていた。

『且授の毒殺完了。面会謝絶の重篤と偽りて情報漏洩の
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