第2部 風のアルビオン
第6章 白の国
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裏口の方へウルキオラたちが向かったことを確かめると、キュルケはギーシュに命令した。
「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ」
「揚げ物の鍋のことかい?」
「そうよ。それをあなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」
「お安い御用だ」
ギーシュは、テーブルの陰で薔薇の造花を振った。
これが彼の魔法の杖なのだった。
花びらが舞い、青銅の戦乙女が現れる。
ゴーレムはぴょこぴょこと厨房に走った。
ゴーレムめがけて矢が飛んだ。
柔らかい青銅に、何本も鋼鉄の鏃がめり込み、ゴーレムがよろめいた。
ギーシュはハッとした顔になったが、ゴーレムはなんとかカウンターの裏の厨房にたどり着き、油の鍋を掴んだ。
「それを入口に向かって投げて?」
キュルケは、手鏡を覗き込んで、化粧を直しながら呟いた。
「こんな時に化粧するのか。君は」
ギーシュは呆れた声で言った。
それでもゴーレムを操り、言われたとおりに鍋を入口に向かって、投げた。
キュルケは杖をつかんで立ち上がる。
「だって歌劇の始まりよ?主演女優がすっぴんじゃ……」
油をまき散らしながら空中を飛ぶ鍋に向かって、杖を振る。
「しまらないじゃないの!」
キュルケの魔法で鍋の中の油が引火して、『女神の杵』亭の入口のあたりに炎を振りまいた。
今しがた、ウルキオラの虚閃から立ち直っり、突撃を敢行しようとした傭兵の一隊が、突如現れた燃え盛る炎にたじろいた。
キュルケは色気たっぷりの仕草で呪文を詠唱し、再び杖を振る。
すると炎はますます燃え盛り、入口でたたらを踏んだ傭兵たちに燃え移る。
炎にまかれて、傭兵たちはのた打ち回った。
立ち上がったキュルケは、優雅に髪をかき上げて、杖を掲げた。
そんなキュルケめがけて矢が何本を飛んだが、タバサの風魔法が、その矢をそらす。
「名もなき傭兵の皆様方。あなた方がどうして、あたしたちを襲うのか、まったくこちとら存じませんけども」
降りしきる矢風の中、キュルケは微笑を浮かべて一礼した。
「この『微熱』のキュルケ、謹んでお相手仕りますわ」
巨大ゴーレムの肩の上、フーケは舌打ちをした。
ウルキオラがその場を離れたことにより、束縛が取れたものの、今しがた、突撃を命じた一隊が、炎に巻かれて大騒ぎになっている。
隣に立った仮面に黒いマントの貴族に、フーケは呟いた。
「ったく、やっぱり金で動く連中は使えないわね。あれだけの炎で大騒ぎにじゃないの」
「あれでよい」
「あれじゃあ、あいつらをやっつけることなんざできないじゃない!」
「倒さずとも、かまわぬ。分散すれば、
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