第8話 草原
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から見守った。
上り坂を、下から上まで人の後ろ姿が埋めている。
その先にどのような聖域があるかはわからない。
また単車を走らせた。
細い路地を、散乱するゴミや家具を避けて、坂の上へ。
大通りでざわめきが生まれた。やがて路地が終わり、大通りと合流した。クグチは歩道に立って人々の様子を観察した。みな空を見上げ、「ああ」とか「おお」と感嘆しているが、言葉にはならない。坂のてっぺんで、人々の足が滞り、局所的に渋滞する。そして人々は順次、その先の下り坂へ走り出した。クグチは人々を避けてまた路地に入った。近くの建物の裏側に外階段があった。それを駆け上がり、屋上のカフェテラスで眼鏡を装着した。
人々と同じ光景を見て、クグチは息を飲んだ。
藍色に染まる空に、緑のオーロラが踊っている。オーロラは誘うように、地上に緑の触手を伸ばし、その光が滴って、地にこぼれ落ちてくる。
鳥だった。
オーロラから生まれた大量の鳥たちが、迷いなく地上に急降下してくる。その先を見ようと柵から身を乗り出した。
下り坂の下。
そこで世界が終わっていた。
無が広がっている。
坂を下りきった先が、断崖になっている。
その先はただ黒い、果てしない闇。
闇が、視界の限界で、空と融けあっている。
オーロラの鳥たちは一本の光の通路のように、その闇に突っこんでいく。
そして、人々がみな、両腕を広げて、断崖から身を投げていた。
空を飛べると信じているように。
絶え間なく。
一人の例外もなく。
消えていく。
「やめろ!」
クグチはその光景に向けて叫んだ。
「やめろ!」
そこにいるかもしれない強羅木に叫んだ。
「やめろってば!」
向坂ゴエイや、伊藤ケイタに叫んだ。あさがおに叫んだ。向坂ルネに叫んだ。
赤子に飲ませる離乳食を探していた女に叫んだ。まだ何もわからない、それゆえ死すべきではない子供たちに叫んだ。どこかですれ違ったかもしれない人に叫んだ。言葉を交わしたことがあるかもしれない人に叫んだ。「見つけて」言い遺した女の電磁体に叫んだ。自殺した老婆に叫んだ。「やめろ!」守護天使を間に挟まなければ会話も成り立たない、かつての仕事仲間たちに叫んだ。
叫びながら、あさがおはもういないことや、ルネはとっくに死んでしまっていることを思い出した。
人の列は鎖のように、都市の果てから続いていた。みな、坂の頂でしばし停滞してから、駆け降り、腕という翼を広げて断崖に身を投げる。
ハツセリは。
ハツセリは。
いや、彼女はあそこにはいない。
……ここにいるから。
クグチは上から押し潰されるように、柵に手をかけたままその場にしゃがみこんだ。背後から、ハツセリが来る。砂礫を靴底で軋ませて、彼女が来る。
「眼鏡を外しな
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