第8話 草原
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ですか?」
「僕たちは傲慢だった」
彼は心を消して答えた。
「今でも傲慢だ」
―2―
翌日からクグチは業務に復帰した。外に出れば強羅木に会える、そう信じた。意外にも五日間の無断欠勤は咎められず、岸本は物言いたげな目をくれるだけだった。
子供が眠っている。
道の端、カフェテラスで。
店は祝祭の夜以来、閉店したままだ。
その子は放置されたパラソルが影を落とす、丸いテーブルの下で、目を半開きにして横たわっている。
顔に表情はない。
何故避難所にいないのだろう。あの子の親はどうしたのだろう。
「私のセイラちゃん! 私のセイラちゃん!」
黒ずくめの女が飛行機みたいに両腕を広げて走ってきた。女はクグチの目の前で、その両腕で子供をかっさらうと、勢いを落とすことなく、けたたましい笑い声を上げて走り去っていった。子供の首が腕の中でのけぞり、虫が舞い上がった。子供は死んでいた。
「吉村さん、最近みないけど……」
避難所で男女が声を潜めている。
「駆け落ちしたんだってさ」
「誰と?」
男は肩をすくめ、
「電磁体とさ」
民間ボランティアが、バスに乗って避難所から出ていく。
撤収?
まだ何も解決していないのに。
「何故?」
別の避難所では、自衛軍が姿を消している。
「何故?」
人々は乾いた空を仰ぎ、涙を流す。
次の食料はいつ来るの? 次の水は誰が持って来るの?
「離乳食を……」
女がクグチを呼び止める。
「持って来てくれませんか。この子が死んでしまう――」
「隔離しましょう」
離乳食を求めて訪れた別の避難所では、よくわからないひどい胃腸の病がはやっていて、老人が死んだという。
隔離しよう。このままでは誰も動けなくなる。今具合が悪い人は、みんな一カ所にまとめよう。
どこに?
死体と同じ場所に。
隔離……そう……隔離された。
自衛軍も警察ももう、道東の都市の内部を守っていない。彼らは居住区の外に検問を敷き、都市の外を守っている。誰もここに来ないように。
道東の都市は見放され、隔離されてしまった。
戦争の、Q国の軍事攻撃の哀れな被害者として、人々はただの数字になる。死者という数字に。
「救いようがないんだ」マキメが言う。「私たちは無力だ」
空の赤い光が、彼女の顔に陰を刻む。
避難所に、時折空から物資が落とされ、不運な男が下敷きになって死んだ。
その場にたどり着いた時、人々は輪になって、コンテナを囲んで立っていた。何か神聖な儀式のように、神の声を待つように、声を立てず身じろぎ一つしない。
「何とかしないと」
適当な人に耳打ちするが、
「何とか……何とか……」
相手は夢のように呟くばかり。
「彼は天使になった
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