第8話 草原
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振りほどこうともしなかった。
「人間と人間に似せて作られたもの。もしそれぞれが、自分の来歴を忘れたら、記憶をなくし、自分が誰かを忘れたら、果たしてその区別がつくのかしら」
ハツセリは微笑み、畳みかける。
「あなたに、人間と電磁体の区別がつく?」
「当たり前だろ」
「では、私を何だと思う?」
「人間だ」
「あなたはどう?」
「人間だ、もちろん俺だって。決まってるじゃないか」
クグチはハツセリの細い体を引き寄せた。
「俺は屁理屈をこねに来たんじゃない。ハツセリ、強羅木はどこだ」
「消滅した」表情を消し、「真実を証明する為に、彼はそうした」
手に力が入った。
するとハツセリの手首の感触が消えた。
ハツセリが消えた。
クグチは一人だった。
波音が、世界中の人の声を打ち消す。
風が強く吹いて、背後で灯台の扉が音を立てて閉まった。
呆然と歩いていると、いつしかあの喫茶店の前に立っていた。中から伊藤ケイタが出てきた。彼はクグチに気がつくと、店の扉の前で動きを止めた。二人は見つめあった。
「どうだった?」
クグチは力なく応じた。
「……誰もいませんでした」
「そっか」
彼はぶらぶら歩いて来て、
「まあ、気を落とさないで」
できるだけ優しく話しかける。
「僕も、出来る限りのことをするよ。強羅木君のことは一緒に探そう」
「伊藤さん」
クグチの声の暗さに、伊藤ケイタが緊張する。
「何?」
「電磁体って何ですか?」
「何って?」
「何でそんなものを作ったんですか?」
伊藤ケイタは黙っている。質問の意味がわかりかねるのだろう。
「何で、て……」
「何が、電磁体を作らせたんですか?」
違う。
「何が電磁体を必要としたんですか?」
クグチは言葉を探す。
「誰が――」
訊きたい内容に最も迫る言葉を、ついに見つける。
「人間の何が、人間によく似たものを必要としたというのですか!?」
伊藤ケイタがぎょっとして身を引いた。
二の腕に鳥肌が立ち、クグチは何かよくわからないものに対し、しかし確かに深く、絶望した。
こんなことを聞きたくなどなかった。
こんな疑問を抱きたくなかった。
伊藤ケイタには答えられない。こんな質問には答えられない。恐らく、誰にも。
クグチは耐えきれず逃げ出した。赤い空の下で、誰にも会わず逃げた。
息切れして、もう立っていられない、それほど疲弊した時に、狭い路地で壁に背を預け座りこんだ。クグチは震える手を見つめた。ハツセリの感触は生々しく残っている。
「ハツセリ!」
けれど、彼女は消えてしまった。その言葉の通り、存在しないものとして。
「俺は」
どこにもいないハツセリに、クグチは尋ねる。
「俺は誰だ?」
この声が、ハ
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