第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十一話 緋色の宵 前篇
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地上で燃え盛る炎が黒色の夜空を紅く染め上げる。
見渡す限り全てが焔に飲まれていた……
「……お父…様……お…母様……」
小さな呟きは猛る火炎の音や人々の狂乱の嘆きに塗り潰され、呟いた本人以外には届かない。
どうしてこんな事になったのか?
これは夢ではないのか?
少女の中で様々な感情が入り混じり思考も視界も歪んでいく。
そんな歪んだ視界が捉えるのは一人の黒髪の男。
この災厄はコイツのせいではないのか?
コイツがあの禍いを呼び込んだのではないのか?
何が真実なのかは分からない……だが少女の心は壊れるのを防ぐ為に――――安寧を得る為に憎悪の捌け口を求めた。
少女は近くに転がっていた拳よりも大きい瓦礫に手を伸ばし、有らん限りの力を込めて握り締める。
そして幽鬼の様に立ち上がりゆっくりと男の方へと歩を進め、少女に背を向けている男の頭めがけて瓦礫を振り下ろした
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
空が茜色に染まり人々が帰路につく時刻、大きな屋敷の庭に造られた枯山水を見渡せる縁側に少女が一人。
少女の瞳は格式を感じさせる庭にではなく朱色の夕空に向けられている。
「今日も日が暮れるのね……」
誰に言うのでもない唯の呟きに深い意味は無く、彼女の見つめる先では一羽の烏が一日の終わりを告げるかのように鳴き声を上げながら空を駆けて行く。
「ふふふふふ♪畜生が鳴いているわ?」
その烏を見て少女――――輝夜は楽しそうな声を上げ、そして――――突然背後から何者かに蹴り飛ばされ軽く放物線を描きながら庭に落ちた……ちなみに顔から。
輝夜はすぐさま起き上がると顔の砂を払う事もせず蹴り飛ばした犯人を睨み付け、
「何するのよッ!妹紅ッ!」
犯人である妹紅に食って掛かるが、怒声を浴びせられた妹紅は呆れ顔で、
「……まさかと思うけど……あんた日がな一日此処に座っていたとかじゃないわよね?」
彼女の問いは若干否定を願って口にしたものであったのだが、
「やる事もなかったしね……何よ何か悪いの?」
輝夜は胸を張って妹紅の問いを肯定する。輝夜の発言に妹紅は眩暈を堪えるかのように手のひらを自分の額に当てた。
妹紅は知らない事なので仕方が無いが、永きを生きる輝夜にとって何もせず唯じっとしている事は無為でも苦痛でもないのだ。生き急ぐ理由が無い、とも言える。
「……まぁいいわ、そろそろ夕飯だから呼びにきてあげたのよ感謝しなさい」
「あらそうだったの?うむうむ大儀である?」
輝夜は胸の前で両手を組み尊大な態度でそんな事を口にすると、
「……私は感謝しろって言ったん
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