第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
五十一話 緋色の宵 前篇
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のだろう。
妹紅の抵抗が止んだ瞬間に輝夜は持てる全力で屋敷の外へと妹紅の腕を引きながら走り出す。一瞬だけ背後を振り返った輝夜の目に映ったのは――――満足感や後悔や無念が入り混じったような不比等の微笑み……。
自分自身の死を幾度も経験した輝夜が――――初めて他人を見殺しにしてしまった瞬間でもあった。
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「離しなさいよッ!!お父様がッ!お母様がッ!離してッ!!」
「離す訳がないでしょうッ!!……もう……手遅れよ……」
二人は屋敷の外まで避難したが、妹紅が燃え盛る屋敷に駆け戻ろうとするのを輝夜が羽交い絞めにして必死に止めている。
二人の周囲の建物も見渡せる限り赤い炎を上げ熱のせいで息苦しく、立ち上る黒煙が夕の街を夜よりも暗く暗く染め上げている。
人の姿が見えないのは既に避難したのか、それとも……。
自分たち以外の人影が無いことに気付いていない二人に突然何者かが声をかけてきた。
「おう?何だ何だ?何やらお困りか嬢ちゃん達、手を貸してやろうか?」
その言葉に表情を和らげた妹紅が振り返り、そして――――顔を強張らせ硬直する。不審に思った輝夜が妹紅の視線を追いかけ振り返るとそこに居たのは長身の大男。
炎によって生まれた烈風が男の群青色の長髪をなびかせ、紅い光が男の顔を照らし出していた。身に纏う雰囲気そして――――両こめかみから生えている角が男が人ではないと物語っている。
「…………穢……れ……」
輝夜はこれまで穢れ――――妖怪と直接対面した事が無い、地上に居た頃は話を聞くだけだった。そして今ここで初めて直に妖怪と出会い恐怖する。
虚空や庵や守備隊の人々はこんなモノと戦って帝都を護っていたのか――――長い時を経て輝夜は彼等にどれだけ恩を感じないといけないのか悟った。
守られる事を当たり前だと、彼等は戦って帝都を護る事が当たり前だと本気で信じていた自分を殴りたい衝動にかられる。自分はこんなモノとは相対できない、今更ながら彼等に敬意を抱いた。
目の前に現れた鬼という脅威に輝夜と妹紅は戦慄し腰を抜かしたかのようにその場にへたり込む。そんな二人の様子が可笑しかったのか鬼――――百鬼丸は声を上げ笑いながら二人の目の前にまで歩み寄った。
「んん〜?ハハハハハッ!よく見りゃ中々上玉じゃねーか!此処で死なせるにはもったいないかぁ?鬼らしく攫っちまうってのも一興か!」
百鬼丸はそんな風に独り言ちると輝夜の顎に手を伸ばし顔を自分の方へと向けさせた。輝夜は蛇に睨まれた蛙の様に竦み上がり抵抗も出来ずされるがまま。
輝夜の目に映るのは赤い光に照らされる穢れの満足そうな笑みと
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