第五章
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第五章
「そうだけれどな」
「何でここでドイツ語なんだよ」
「ああ、ドイツ軍の戦車何となく思い出してな」
実は紅はシュミレーションゲームが好きだったりする。
「それでなんだよな、実は」
「ドイツ軍の戦車かよ」
「いい名前だろ」
少しにこりとしながら加藤に問う。しかもドイツ軍マニアであるらしい。
「俺この戦車結構好きなんだよな」
「まあいい名前だな。しかし豹か」
「ああ、豹だ」
このことがまた確認された。
「豹みたいにやれ。いいな」
「よし、わかった」
彼はあらためてその言葉に頷いた。
「慎重に気付かれないようにだな」
「それで距離を少しずつ詰めていくんだ」
どうにも話が恋路というよりは狩りのそれに近いものにさえなっていた。
「それでいいな」
「わかったさ。まあとりあえずは」
加藤はおかずの卵焼きに箸をつけた。これは母親の自慢の料理だ。彼の好物でもある。それを食べながら紅に対して言うのだった。
「あれだな。向こうのクラス行くか」
「A組だな」
「名前位確かめないとな」
実はまだそれもしていないのであった。はじまってもいないと言ってもいい。
「それからだな。まずはな」
「そうだな。名前位はな」
これには紅も同じ考えだった。名前も知らないのでは話にもならない。
「覚えておけよ。まあここでも」
「気付かれないようにだな」
「そういうことさ。それでいいな」
「ああ、わかった」
こうして彼の次の行動が決まった。彼は実際にA組に向かった。こっそり行くと壁に座席表があった。しかも彼女はクラスの端の方でぽつんと本を読んでいる。その席の名前を見てみると。
「御木本優っていうのか」
名前もわかった。これでやっとスタートラインに立ったのだった。彼はそれを確認するとすぐにクラスに戻って紅にこのことを話すのだった。
「御木本さんっていうのか」
「そうだな。名前はこれでわかったな」
「やっぱり聞かない名前だな」
紅は加藤の話を聞いてこう言って首を捻った。
「御木本さんねえ」
「知らないか?」
「俺結構A組いるけれどな」
彼はA組に前の学年でのクラスメイトが大勢いるのである。それでだ。
「御木本さんか」
「知らないのか?」
「相当目立たない娘みたいだな。あのクラス騒がしいのと静かなのの差が激しいからな」
「そんなに激しいのか」
「だから俺も気付かなかったんだろうな」
こう自分で言うのだった。
「多分な」
「そうか。まあ確かに目立たない娘だよな」
「けれどその娘が好きになったんだな」
「そうだよ」
このことははっきりと答えたのだった。
「何かな。静かにたたずんでるって感じがな」
「御前そうした好みだったんだな」
紅はそれを知ってまた首を捻った。
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