首無き麒麟は黒と出会い
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屈強な兵士が跪く様は雄大にして荘厳。
膝を付いて尚、威風堂々たる姿に見惚れること幾瞬、高鳴る胸は抑えられるはずも無く……劉協は胸の内に溜まる気持ちを全て吐き出すかのように、ほう、と息を吐いた。
彼らが如何様にして街を救ったか、耳に挟んではいる。
特殊な笛を用いた民の誘導と伝達、流れるような連携での救助活動。暴徒に堕ちた兵士からの凶刃に対して、身を賭して盾となる事もあったという。
子供心に、劉協は思う。
彼ら一人一人こそが英雄なのだ、と。身を、命を、魂を掛けて人々を守る彼らこそ、英雄と呼ばれるに相応しい、と。
名を上げようとも、優雅な暮らしをしようともせず、ただ黙々と主に従い平穏な世界の為に命を使う……そんな彼らに敬いの念を向けずして人と言えるか。否、否であろう。
隣で微笑む覇王は、この英雄たちの命を対価として、長きに渡る平穏を手に入れようとしている。
敬いを忘れず、礼を失わず、生死の別なき全ての命の為に戦っているのだ。血肉を喰らって、想いを喰らって、天を新たに染め上げる為の階を作っているのだ。
愚かしい、とは劉協も思わなかった。聡明であるが故に、平穏を作り出すにはもう莫大な命を対価にするしかないとよく理解している。
帝であれば、俗世の事だと任せる事も出来るが……彼女は知りたかった。
帰ってきた時には燃えてしまった街があった。
馬車から覗けば泥に塗れた人々が、涙を零しながら炊き出しを食んでいた。
たかがこんな小童の為に戦が起きたのだ……と感じてしまった。持つべきではない感情を持つ程に、彼女は優しすぎた。
故に、彼女は彼らに対して、言っておきたい言葉があった。
「……徐晃隊、いや、黒麒麟の身体よ」
冷たく、されども暖かい少女の声が城前の広場に浮かんだ。
彼らは黙して語らず、続きを待った。絶対的なカリスマを持つ帝を前にしても、彼らの心はブレるはずもない。動かず静かに、頭を垂れていた。
恐れ多くも帝が兵士達に声を掛けるなど……通常ならばまず無いが、きっと副長達のおかげだろう……彼らは自分達の同志が行った嘗ての働きに敬意を抱く。
「一度しか言わぬ。散った同志らの墓前にも捧げよ。
洛陽では……大義であった」
華琳は隣で満足気に笑みを深める。彼らにとって自分達の戦友を称えられる事は救いに違いない……そう感じて。
顔を上げない五百の兵士達の心には安らぎが来たり、自分達もそうあれかし、といつものように心を高めていく。
返す言葉はなんであるか。今、褒められているのは嘗ての彼であり、彼らなのだ。この時ばかりは許してくれと思うも、彼らにとって命令は絶対。彼の指標を示したくとも示さず。
言葉の代わりとばかり、全員がさらに深く頭を下げる。
目を丸くした劉協は少し
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