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四重唱
第九章
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作品の柱です」
 大沢はこの時舞台だけを見ていたのではなかった。このウィーンという街全体を見ていたのである。薔薇の騎士はウィーンを舞台とし、ウィーンで生まれた作品である。そしてこの国立歌劇場で昔から上演されてきた。かつてナチスはリヒャルト=シュトラウスの作品を上演禁止にしたことがあるがこの作品だけは禁止にすることができなかった。それは何故か、この作品があまりにも素晴らしいからである。ナチスもそれを認めるしかなかったのだ。もっともヒトラーは歌劇に対する素養もかなりのものであったことが知られているが。ただし彼が愛したのはワーグナーでありシュトラウスではなかった。それも理由だったのかも知れない。シュトラウスはワーグナー的なものの他にモーツァルト的なものを入れ、そうして独自の花を開花させたのだから。
「そのマルシャリンになられている貴女は」
「このままでいいと」
「そうです。そしてそれはですね」
 大沢は今度はヒルデガントに顔を向けるのであった。
「貴女ですが」
「私はどうすれば」
「貴女についても言うことはありません」
 彼はヒルデガントにもこう述べた。
「そのままで御願いします」
「私の思うままにですか」
「はい。私もこれまで多くのカンカンを見てきました」
 カンカンというのはオクタヴィアンの仇名である。元帥夫人が彼をこう呼ぶのである。マルシャリンとカンカン、そしてゾフィーがこの作品の三本の柱となっているのだ。
「ですが貴女はカンカンそのものです」
「私がですか」
「そうです。ですから貴女もそのままで」
「わかりました。それでは」
 ヒルデガントも頷いた。大沢はまずはこの二人に対して感嘆の言葉を漏らすのであった。
「これはどうやら。最高の薔薇の騎士になることが約束されましたね」
「随分と自信がおありなのですな」
 アンドレアスは彼のその感嘆の言葉を聞いてこう言葉を返した。
「まだリハーサルもはじまっていないのに」
「全ては貴方達のおかげです」
 大沢はそのアンドレアスに対しても言うのであった。その感嘆を。
「ですからここは」
「おいおい、これはまた」
 一緒にその場にいたバジーニが彼のあまりもの感嘆の言葉に思わず苦笑いを浮かべるのであった。

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