第七章
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にしていないのだった。それは何故か、より大きな者を見ていたからである。
「僕への愛は。裏切られてはいないから」
「あなたへの愛は」
「裏切ったことはないね」
じっと妻を見て問う。
「いつも僕を愛してくれているね」
「ええ」
図々しいと思いながらも頷くのであった。彼女自身の心に従って。
「だからいいんだ。僕はそれで」
「私は。それでも」
「君の愛は一つじゃない」
アンドレアスはまた妻に言う。彼女を包み込みながら。
「その一つが僕に注がれていればそれでいいんだよ」
「そうなの」
「うん」
にこりと笑ってハムを少し切り。それを口の中に入れた。
「それだけでね。僕は満足だよ」
「どうして」
ハンナは夫の言葉を聞いて呟いた。目は泣いてはいないが心では違っていた。
「私には。とても過ぎた方ばかりが私を愛してくれるの」
「それも違うよ」
アンドレアスはハンナのその言葉も否定した。
「そう思うのは。むしろ君に愛される人達さ」
「私に、なのね」
「僕も彼女も」
ヒルデガントのことはあえて名前は出さないが。それでも言った。
「それで幸せなんだよ」
「とてもそんな」
「自分を受け入れればいいんだよ」
また優しい声で告げた。
「君自身を。君はとても素晴らしい女性だからね」
「またそんな」
「いや、僕は嘘は言わない」
それでもアンドレアスは言う。じっと自分の妻を見ながら。
「君に対しては。絶対に」
「あなたからはそう見えるのね」
「それは多くの人がそうだと思う」
主観だがそれは事実だと考えていた。言い換えるならばそれが事実だとアンドレアスに思わせるものがハンナにはあるのだった。だがハンナはそれを自分で否定しているだけであった。
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