第五章
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第五章
「何時だって二人きりの時はそうだったわね」
「そうでしたね」
言われてそれに気付くヒルデガントだった。気付くというよりは思い出したのだった。
「何時でも二人の時はこれでした」
「私。最初はココアは好きじゃなかったの」
ハンナもまたそのココアを右手に取った。そうしてヒルデガントに告げる。
「元帥夫人をやるようになってから。それでもね」
「それが変わったのですね」
「そうよ。貴女と一緒にいるようになってから」
ヒルデガントが好きだから彼女の好きなものを飲むようになって。それからだったのだ。そうした意味でハンナにとって思い出深い飲み物になっていたのである。
「好きになったのよ」
「そうだったんですか」
「今だから言えることなの」
それも今告白するのであった。
「今だから」
「何もかもが終わろうとする中でですか」
「飲むのは二人の時だけ」
こうも言う。
「今は。これからはどうなのかしらね」
「よかったら。一人で飲んで下さい」
ヒルデガントはハンナに言った。
「私のことを忘れて」
「辛いことを言うわね」
その言葉を聞いて。物哀しい苦笑いを浮かべるハンナであった。
「貴女と一緒だから飲んでいるのに」
「すいません。ですが」
「いいわ。わかっているから」
彼女の心はわかっていた。忘れて欲しいがそれと共に覚えていても欲しい、それはハンナも同じ気持ちだったのだ。だからそんな彼女を怒ることもできなかったのだ。
「私も同じだから」
「そうですか」
「そうよ。未練よね」
またしても陰のある笑みを浮かべる。それが離れられなくなっていた。
「どうしてもね。そうなってしまうようになったわ」
「私もです」
「お互いね。どうにも」
別れると決めてもそれでも心は動く。その動くのに耐えられなくとも心が動き続ける。それがどうしようもなく辛くて仕方がなかったのだ。
「止められないわね」
「こうした心が。最後まで続くのでしょうか」
「でしょうね。けれど私も貴女ももう決めたから」
「はい」
「ココアを二人で飲むのも終わりにしましょう」
そう告げて最後の一口を飲んだ。甘い筈のココアが苦く、切ない味になっていた。涙の味がする、ハンナは心の中でそう思った。
「もうすぐね」
「もうすぐ何もかもが」
「私達の時間は終わるわ」
寂しい声が何処までも続く。その声で述べるのであった。
「もうすぐね」
「私は私の。貴女は貴女の」
ヒルデガントも寂しい声になっていた。二人の声はそうした意味で同じ響きを持つものになっていた。二人は自分の声とお互いの声を聴いて。また心の中で寂寥を感じてそれに耐えられない辛さを味わうことになるのだった。それはどうしようもなかった。
「時間は続くけれど」
「
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