第三章
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れてその黒が実によく映えている。着こなしているその姿も実に整っている。しかもそれを着ているのは女である。銀色の髪をパーマにさせている。瞳は黒で大きくそれが白い肌に実によく合っている。中性的な顔立ちと言える、男にしても女にしても通用するような見事な顔をしている。彼女はヒルデガント=ゲーニッツ。ハンナの不倫相手であり今度の薔薇の騎士においてオクタヴィアンを歌うメゾソプラノである。彼女もまた当代きってのメゾソプラノでありまたオクタヴィアンの役でもあたり役と評判を取っている。その二人が今向かい合って話をしているのである。
「今度の舞台でそれなのね」
「すいません」
二人は少し俯いて話をしていた。ヒルデガントは申し訳なさそうにハンナに答えていた。
「私には。もう貴女を愛する資格は」
「それはお互い様よ」
ハンナは俯いたままそう述べる。別にヒルデガントを責めるわけではなかった。
「家庭もあって。しかも女どうしだし」
「それはそうですが」
「だから。同じなのよ」
そう言ってヒルデガントを慰める。
「私も。もう」
「もう?」
「続けられなくなってきたのよ」
寂しげな笑みを浮かべての言葉だった。
「もう。これ以上は」
「周りの声が気になってでしょうか」
「それもあるわ」
彼女はそれを認めた。
「けれどね。それ以上に」
「はい」
「私は今も主人が好きで。貴女も」
「私もそれは同じです」
ヒルデガントもまた家庭を持っている。ピアノ演奏家の夫に娘もいる。だが彼女はレズビアンでもありだからこそハンナとの愛を育んでいたのである。ハンナはそのことで彼女について気付いたことがあったのである。
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