第十六章
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人じゃない。元帥夫人そのものだ」
「そのものなのか」
「だからこんなに」
「そして。あの時のウィーンだ」
あの時の、と言われた。それは果たして何時のウィーンなのか。舞台のうえでのウィーンなのか、それとも初演された時のウィーンであるのか。それは言った者にすらわからないものであった。だがあえてこう言うのであった。
「今あそこにあるのは」
「彼女達もあの彼女達なのね」
「ああ」
誰かがまた誰かの言葉に頷いた。もう彼等、彼女達は今の舞台から離れられなかった。
「元帥夫人がいる」
「今ここに」
第一幕が終わろうとしていた。黒人の男の子に白銀の薔薇を持って行かせる。その時においてさえ。何かが死んでいったのを誰もが感じたのだった。
「死んでいく」
「また何かが」
「けれどそれが何かは」
「もう言えない」
言えなくなっていた。ただ彼等ができることは。舞台を観ることだけだった。第一幕の後の挨拶も終わり第二幕になって。男爵とオクタヴィアンの争いにも皆何かを感じていたのだった。
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