第十五章
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てにあるものですが」
「薔薇の騎士と同じにしましょう」
それがハンナの言葉であった。静かに微笑んでの言葉であった。
「これで」
「はい。それでは」
「はじまりと終わりを」
「歌いましょう」
その言葉が終わって暫くして幕が開いた。いよいよだった。
はじまりの曲からして何かが違っていた。そこにあるのは哀しみであった。既に何かが死にはじめていた。そうした静かな哀しみがもうはじまっていた。
観客達は最初から黙ってしまった。歌劇場は歌と演奏だけが聴こえるあまりにも独特の世界となってしまった。大沢の指揮もオーケストラの演奏も完璧だったがそれ以上に歌手達が圧倒的であった。
「僕の宝!」
「私の坊や!」
二人の二重唱はまだ幸せの中にある。しかしその中でもう元帥夫人は哀しみを帯びている。既に終わりははじまっていて彼女はその中にいたのだ。ハンナもまた。
それは少しずつ高まっていく。その中に誰もが引き込まれそうして。彼等のまた哀しみの中に誘われていくのだった。静かで美しく、それでいていたたまれない哀しみの中に。
「・・・・・・・・・」
マスコミ達も完全に沈黙してしまった。下劣な品性というものは完璧な美の前には全くの無力なものと化してします。今がそれであった。
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