第一章
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。それでウィーンに来たわけだがそこで思いも寄らぬ問題にあたってしまったのである。
「どうしてもこの歌手なのかい?」
「そうだよ」
彼の向かい側に座る白髪頭のアジア系の男が笑顔で頷く。
「駄目かな」
「駄目かなって」
バジーニはそれを聞いて目の前の男を怪訝な目で見た。この男こそこの歌劇場の音楽監督である大沢清治郎である。日本人ではじめてのこの歌劇場の音楽監督として祖国では有名になっている人物である。
「君は何も思わないのかい?」
「彼女は素晴らしい歌手だよ」
大沢の言葉はバジーニにとっては実に的を得ていないものであった。
「他の歌手達も。そうじゃないのかい?」
「皆君が選んで頼んだんだったね」
バジーニは能天気な彼に対して述べた。剣呑な声で。
「確か」
「そうだよ。それがどうかしたのかい?」
「わかっているのかいないのか」
本人の前でも言う。あまりにも彼が能天気に見えたからだ。どちらかというと祖国の関係でバジーニの方が能天気に見られるし実際に資質もそうなのだが今回ばかりはどうにも大沢の能天気さはあまりにも凄いものであった。そうバジーニは思えるものであった。
「いいかい。マルシャリン役は」
「君が何を言いたいのかわかっているよ」
大沢はバジーニの機先を制してきた。
「あれだろう?彼女の不倫のことだね」
「その通りだよ」
バジーニは剣呑な顔で彼に言うのだった。声も同じものである。
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