第1章 群像のフーガ 2022/11
1話 巡り逢う黒
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……ちゃん?」
だが、男はヒヨリの繰り出す突然の自己紹介によって引き止められてしまう。困惑気味に呆けるものの、一応はそれなりに応じてくれるようだ。ヒヨリの勢いに圧され気味になりながら誤認してしまった、アバター名ではない方の名前で、しかもあろうことか《ちゃん付け》で呼ばれ、精神的に甚大な負荷が掛かるのを感じた。今頃、俺の身体は尋常じゃない汗を掻いて苦しんでいることだろう。
しかし、他人に名前を呼び捨てされるのは結構辛いので黒髪のプレイヤーの肩を握る手に誠意と筋力ステータスが能うる限りの握力を込めて訂正しておく。幸い、スムーズに理解していただけたようだ。
「相方が失礼した」
「………いや、こっちこそ心配してもらっておいて素通りも失礼だったよな。俺は《キリト》、ソロだ」
「キリトか。………それより、このあたりは夜になるとモンスターの種類が変わって強い奴が増えるし湧出場所も変化する。最寄の安全地帯も遠いぞ?」
「ああ、でも流石に拾った手前また捨てていくのも気が引けるんだよな………」
捨て猫か。と内心でツッコミを入れつつ、ヒヨリの方を向く。
するとヒヨリは聞くまでもないといったふうに頷き、覚束ない操作で《フロウメイデン》に装備を切り替え、「この人なら見せても大丈夫でしょ?」と言わんばかりに微笑んでみせる。流石は相棒である。
俺も《レイジハウル》に装備を切り替えるが、キリトはこの装備に関しては一切詮索しようとしない。本当によくできた男である。
「大丈夫! 私たちが守ってあげるよ!」
「いや、流石にそこまでやってもらうわけには………」
「そんなことないよ。私たちもその女の子を助けたいもん………だから、手伝わせて?」
俺の意思は意に介さず、ヒヨリは大胆にも同行を申し出た。バツが悪そうな顔をするキリトだが、正直なところ、夜道の危険性――――出現するモンスターの強さという意味で――――を考慮すれば放っておくわけにもいかない。ここまで関わっておいて死なれても寝醒めは良くないだろう。
しかし、同時にこれがヒヨリの凄さなのだと感心もする。同情とか建前ではなく、相手を見据えて、まっすぐに心から突き出された言葉や行為なだけに、妙に温かくて心強く感じるのだろう。本当に他者と《真摯》に向き合うことこそが、きっとヒヨリの強さなのだ。
………と、それよりも意識不明のプレイヤーを運ぶことが先決だ。
先の戦闘でのHPの消耗を、ポーションを一気に呷って回復させる。これからは第二ラウンドが始まる。
《ルインコボルド・ブラッドリッカー》との戦闘に比べれば危険度は大幅に減少するが、それでもこれは生き死にの係ったデスゲームだ。ステータスや経験に胡坐をかけば、生命の碑の自分のアバター名に滑らかな横線を刻まれることは
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