赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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を見せた。
ただ、この戦場では梯子を持ち寄るのは下策と言える。
打ち付けられた杭の群れによって長い梯子は限定された方向にしか進めず、咄嗟の回避行動に支障が出る。細かい部分だが、その効果は絶大だった。
秋蘭が指揮する夏侯淵隊は射掛ける矢を局所的に浴びせ、消費を最小限に抑えられるのだ。
当然、真正面にも左右にも、追随する兵士達が盾を以って守っている……が、その程度のモノは黒に従う賢狼にも、覇王の為の天才軍師二人にも読み筋の戦術。全ての準備は万端であった。
口を引き裂いたのは……稟。
「秋蘭」
「うむ……発射用意!」
掛け声は大きく、凛々しい。
一言の指示だけで全ての兵が気を引き締めた。皆、ゴクリ……と生唾を呑み込む。城外からの雄叫びが遠くに感じた。
見れば城壁の各所は歯抜けのように板が張られている。木の板がずらされて覗くその本来のモノよりも小さな兵器は……朔夜と真桜が延津で使用したモノと同じ。
「まだだ……」
杭の数は手前から三十列。未だ敵は二十五の所を駆けていた。
各兵器の隣では、秋蘭と稟に視線を送る指示役がそわそわと身体を揺する。
「まだです」
逸る心を抑え付けられるように、稟と秋蘭は兵達に声を投げる。敵は漸く二十を過ぎた。
緊張からか、皆の額には脂汗が浮かんでいた。
「……っ」
十五に差し掛かった所で、秋蘭は大きく息を吸い込んだ。敵の蹂躙まで、僅か数秒。
十一に差しかかるか否かの所で……秋蘭と稟が同時に声を張り上げた。
『ふぁいあっ!』
異質な掛け声と振り下ろされる手。
遅れて、弾ける音が城壁の上で同時に鳴った。計算された角度、照準、タイミング……どれを取っても問題は無く、突き進む袁紹軍に、斜めと縦から、人の頭程度の石が弾丸の如く襲い掛かった。
その数、ゆうに二十を超える。
城壁を突破する梯子は長い。走る方向が限定されているならば……狙うにはいい的でしかなかった。
鈍重な肉を打つ音が散らばる。何処かでは木の砕ける音が鳴った。どこもかしこも人の列が崩れた。東に圧し寄る敵軍全てが、広大な戦場でその瞬間に動きを止めた。飛んでくる石の速度に、敵は恐怖を刻み込まされる。
「っし!」
兵達から歓声が上がる中、拳を強く握って、稟はガッツポーズを一つ。
普段なら有り得ない稟の歓喜の仕草に、秋蘭は苦笑を零しそうになるも、急ぎで兵士達に指示を飛ばす。
「次弾装填っ! 梯子を全て壊せ! 大型っ、杭の数より距離設定! 目標、敵兵器!」
瞬時に、曹操軍の兵士達は気を引き締めて……兵器の威力から笑みを浮かべて行動に移った。
杭は照準を合わせやすいようにと打ち付けたモノでもあった。勿論、移動櫓や梯子対策でもあり、敵兵が抜こう
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