赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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みが何かを理解したいと希っていた。
――でも、分かってます。あなたはきっと人に言ってはならない秘密を内に封じている。そうでなければ、弱いあなたが強くなれるわけがない。
ここ数か月の付き合いで朔夜は彼の多くを読み取った。
異端さばかりが際立つが、人としての彼は本当に普通の人物で、逃げる事が多いのは弱さから。
世界を変えようなど、到底しないはずの人。そんな彼が他者の為だけにと強くなるには、自分を信じて欲しいと願う程の負い目を背負わなければ成り得ない……そう、朔夜は予想していた。
その領分に踏み込むのは優しさではなく、労りでもなく、ただの自己満足の欲深さ。支えたいと言いながら自分の言い分を押し付けるのは迷惑でしかない、と彼女は優しい月の在り方から学んでいた。
故に、朔夜は聞かない。
「……この戦が、終わってから考えるのが吉かと」
「だな。記憶が戻れば分かるだろうし」
其処でまた、轟音が鳴った。
目を向けるとバリスタの周りで敵が忙しなく動いている。また射撃を行ったのだ。
他にも動きが一つ。誰の指示なのか、敵は陣形を整え始めていた。
「敵、の動きは虚です。どちらにも対応できるように」
「同じ事をやり返してきたわけだ……ま、西と東から合図があれば、次はこっちの番だな」
「下は、どうしますか?」
「予定通り、城門がある程度破壊されたら“内側から”倒せばいいだろ。燃えてる木の上に油を注げば、アレを準備する間は通れないし見えないからな」
「“下の下”は?」
「そっちも予定通り、一定以上の敵兵が動いたら“砕こう”か。外から順繰りに」
「以下でも投石器とアレは使うんですか?」
「城壁上から兵に対しての攻撃は小型投石器だけで十分だ。その代わり……クク、あいつらにはアレをお見舞いしてやりゃいい。動かないなら兵にも、な。敵はもう蜘蛛の巣に掛かってんだから」
にやりと笑って、彼はバリスタの側に並ぶ二人を指さした。
朔夜はその意図を理解し、愛らしい笑みを浮かべる。
彼女の問いかけは答え合わせ。彼が自分と同じ対応を選ぶかどうか、試していたのだ。
「正解、です。死ぬ事はなくても、怪我くらいはして貰うのがよいかと」
――別に死んでくれてもいいですけど。
朔夜の頭に昏い欲望が湧く。
あの赤い女を得る事で彼が苦しむのなら、彼を彼で無くしてしまうのなら、彼女にとっては不正解。
賢狼は心の奥まで黒への想いに染まっていた。
†
東門も同じくバリスタによる一撃を受けた。轟々と燃える炎が城門を焦がすも、焼切るまでは長い時間が掛かるであろう。
その間にと、袁紹軍は通常の攻城戦と同様に矢を以って兵数を減らし、城壁に梯子を掛けて突破せんと攻勢の構え
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