赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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たら、どれだけ楽しい毎日を過ごせたのか。
分岐点は既に過ぎ去った。桂花を逃がした時に、明は夕を無理矢理連れて逃げ出しておくべきだった。流れた時間は、戻らない。
そも、夕が母の命を望んでいたのだから、裏切れるわけは無かったのだが……。
だから彼女は、今の大切な宝物の為に、自分に出来る最善を選択し続けるしかない。
「……秋兄は優しいね」
寂しい笑顔を浮かべた。普通に、ありのまま本心を話せばいい。そうすれば彼は揺らぐとずっと前から知っている。
「でもおいそれと裏切ったら、あたし達がしてきた事ってなんだったのかな?」
心が軋んだ。全てが無駄な徒労に過ぎなくなるのだと、明の心が抗う。その痛みに夕が耐えられるわけがなく、彼女が壊れてしまったら自身がまだ動いている意味も潰えるだろう。
彼の心も軋んだ。嘗ての自分に対して言葉を向けていると相似だと気付いて。徒労に終わって壊れた黒麒麟も、最後まで遣り切ろうと勘違いしたまま抗うのだろうとよく分かる。認められなかったからこそ壊れたに違いない、そう思った。
「あたしはね、夕の一番大きな幸せを叶えてあげたい。だから逃げたくないんだよ」
強い光を宿す黄金の瞳は、自分ときっと同じ……彼女の一番大きな幸せを叶えてあげたくて、彼は逃げないと決めたから。
「誘ってくれてありがとね。本当にダメそうなときは、さ……あたし達を助けて?」
洛陽で夕も同じように助力を頼んだ。その時の気持ちが明にはやっと理解出来た。
利用する計算を頭で行いながらも、本心が抑えられない。
――イカレちゃってるあたし達は、自分達と同じモノに期待せずにいられない。信じてないのに信じたいとか……変なの。
二律背反の矛盾だらけ。自分がどんな顔をしているのか、彼女には分からなかった。
ふいと逸らしていた顔を彼に向けると、昔に見た黒ではない気がした。憎悪と悲哀とが織り交ざった瞳は、澱みが見当たらずに透き通っていた。
あの時からどう変わったか分からない。明には、今の彼の事を読み取れなかった。
「……約束する。例え俺しか賛同しなくても、お前さんの大切なもんを助ける為に力を貸そう。裏切れば、だけどな」
「ひひっ♪ あんがと、秋兄。じゃあさ、勝ったらあたしと夕のモノになってね♪」
「クク、やだね。誰がお前の言う事なんざ聞いてやるかよ」
「秋兄の意思なんて関係ないもーん♪ 力付くで言う事聞かせるだけだし」
べーっと舌を出しておどける姿に、彼は口を引き裂いて笑う。飄々と話す彼女は、きっと自分と同じなのだと感じた為に。
「誰かの為に、自分の為に……ってか? ぶっ壊れてるな、お前も」
「おっ、あたし達と同じ事言えるようになったんだ。鳳統がそんなに大事なんて、妬けちゃうじゃん♪」
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