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乱世の確率事象改変
赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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「へぇ……教えてくれ」

 不思議な瞳の色に首を傾げた明だが、洛陽では読み取りにくくなっていた事を思い出して切って捨てる。
 ゆっくりと、あの異質な戦場の最後を締めくくった一騎打ちと、透き通った顔で泣きながら笑う白馬の片腕を思い出していった。
 重要な部分は一つだけ。明が彼に伝えなければならないのは、最期の懺悔。
 そうして、彼女は唯一罪悪感を抱いた少女が誰かに伝えたかった言葉を、紡ぎ落した。

「『せめてあなたの望む世界になりますように』だってさ」

 嘗ての友の最期の言葉を耳に入れた途端、彼は頭と胸に手を当てた。
 ズキ、と針で突き刺されたように頭が痛む。
 ギリギリと万力で締め上げられるように胸が痛んだ。

 白い世界が頭を過ぎる。どうして助けてくれなかったのか、と少女が責めた。
 昏い記憶が頭を掠める。少女の声が、血と臓物と汚物に塗れた戦場で絶望を吐き出した。
 赤い髪が舞っていた。目の前の女が口を引き裂いて鎌を振りかざしていた。
 お前は生きろよ、と笑い掛ける誰かの頸が飛ぶ。そして自分も……その赤の狂人の刃に倒れた。
 最後に聴こえたのは哀しい願い。

 絶望の世界を呪わずに、救えなかった誰かを漸く救い出せた歓喜と
 絶望の世界を悲しんで、一番の助けになれたであろう誰かへ想いを繋いだ。

『せっかく戻ったのに、一人にしてしまいます。せめて、あなたの望む世界になりますように……秋斗』

 ああ、と彼の口から吐息が漏れる。
 これは自分の記憶ではない。きっとあいつが、あの腹黒が、自分にナニカしたのだろう。そうでなければ、他人の記憶や想いが混じるわけがないのだから、と。
 もう自分は人では無いのだと……上位の存在から命を受け、世界を変える為に弄繰り回されてしまったのだと……絶叫を上げそうになった。
 何かを思い出しそうだった。
 じくじくと罪悪感と自責の圧迫が押し迫る。
 多くの人が自分を責めたのではないか……何を言った? 何を突き付けられた? どんな言葉が、痛かった?

 自己乖離ギリギリのハザマで、彼を繋ぐのは一人の泣き顔。

 彼女は泣いていた。黒麒麟の居場所に自分が居るから、今もきっと泣いている。
 一輪の美しい華のような笑顔を絶望に散らしたのは……自分。

――もう一度笑って欲しいから……俺は黒になろうと決めたんだ。

 天に操られる傀儡でも無い、黒麒麟でも無い、彼だけの想い、その始まりはたった一人。だから、彼は彼のままでいられた。

「大丈夫?」

 嘘のように心が静かに収束し始める。
 決めてしまえば、渦巻く昏い願望はもう気にならない。
 きっとその少女はこいつを憎んでいたんだろうと理解しても、そんなモノに引き摺られてやるモノか、と。

「……い
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