赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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いんだ。俺が、黒麒麟に戻る為に」
その言い方は卑怯だ。自分は黒麒麟を知らないから、朔夜は我慢するしかない。
不安が胸を埋めるも、朔夜は掌を握って顔を俯ける。また、彼が頭をくしゃりと撫でた。
「じゃあ、行ってくる」
返される声は穏やかで、普通なら信頼を感じるモノ。
大きくて小さな背中を見つめて、眉根を寄せ、朔夜はきゅむきゅむと拳を握る。
「私は……月姉様の所に、先に行ってます」
「ああ、月光の準備を頼むって伝えてくれ。あの人を迎えに行かなきゃならんからな」
たたっと駆けて行く少女の足音は耳に軽く。
彼は城壁の端、兵士達すら下がらせて赤い少女を見つめた。
にやけた笑顔が不快だった。殺したいと思った。
なのに何処か、親しみを感じていた。
どちらの感情が嘗ての自分のモノか分からないが、今の自分には敵でしかない……と心の内に唱えれば、カチリと脳髄が冷え切った。
背丈はそこまで高くない。ボロボロの衣服が少しばかり痛々しい。輝く黄金の瞳は……透き通って見えた。
「やっほー♪ 久しぶりだね、秋兄」
――やはり俺を知ってるのか。記憶を失った事を言っていいのかどうか……ってか真名とかどうすりゃいいんだよ。
ノープランである。
どういった対応をしよう、こう来たらこう返そう……そんな事は全く組み立てていない。
昔の自分なら、きっと親しげに真名を呼んで何がしかの楔を打ち込んだのだろうと思う。しかし、今の彼は彼女の真名を知らない。
難しい顔をして頭を振る秋斗に、明は訝しげに眉を寄せて視線を送る。
「どったの? あ、コロシアイした後なのにって思ってんの? それとも公孫賛を追い遣ったあたし達が憎いって? たっくさん殺してきたのにそれはないよね、偽善者さん♪」
挑発なんだろうか、とさらに悩む。親しげで嘲りも含まれない彼女の態度に、彼は本気でどうしたらいいのか分からなかった。
頭の中に、彼女が見ていた黒麒麟を留めながら、どうにか視線を外さずに明を見つめる。
明は彼の違和感にすぐ気付く。自分の皮肉に軽口一つ叩けない男ではないはずだ、と。
――秋兄って何考えてるかわかんないし……要件だけ言った方がいいかもしんない。
自分の知る彼と違う様子に、若干の焦りと警戒を覚えた。自分と同類ならもしかしたら……この独断行動は浅はかだったかもしれない、と。
「ま、いっか。要件っていうか個人的な話だけどさー……関靖の最期の言葉、秋兄に教えてあげようと思って」
不可測の連続ではあったが、秋斗は話の内容に歓喜が湧いた。殺したいと喚く心よりも、自分の過去を彩っていた人物の話を聞ける事がただ嬉しかった。
殺気と歓喜が綯い交ぜになった目を細めて、彼は漸く口を開く。
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