赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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は分からないだろう。彼女はその輪の中にいるから分からない。外から見ないと、この感覚はきっと分かって貰えない。
続けて言葉を返そうとしたが、一人の兵士が近づいて来たから止めておいた。
「張コウ様、顔良様。陽武まで撤退せよ、との伝令です。張遼と夏候惇、楽進の部隊が動いている、とのことです」
「なっ……」
「あ、やっぱり?」
斗詩は驚いていたが、予想の一つではあった。
官渡に攻め込んでいる間に本陣や烏巣を狙う。戦では当然のやり方。個別撃破や孤立を恐れるか恐れないかで言えば、曹操軍は恐れない部類だ。判断する頭脳が数多もあって、決行する心の強い奴が幾人も居る。
「……夕ちゃんの予測?」
「うんにゃ、これはあたしの予想。陽動の意味も組んでるんでしょ。烏巣にも兵を分けたから、そっちを狙うかもーって見せたいんだよ」
「文ちゃん大丈夫かな……」
「問題ない。相手は八割がた攻めないね。いくら神速と覇王の大剣って言っても、倍以上の兵数に挟撃される方が大問題だもん」
それが分からないバカなら苦労はしない。猪々子なら攻めてくれそうだけど、夏候惇は別種のバカだ。アレは戦に対する嗅覚が他とは違いすぎる。
「さ、戻ろうかね。速く戻った方がいい?」
「いえ、刻限指定はありませんが……」
「ん、分かった。纏めてすぐ戻るからーって言っといて」
御意、と頭を下げて兵士は駆けて行く。
――これで官渡もおしまいかー。ただの兵器で人を殺すって……なんかつまんないな。
味気ない。本当にそう思う。
人が足掻く姿が見れない。人が生きている感覚が薄い。絶望が其処にあるだけで、諦観の割合が高すぎて面白くない。
負けるなら敵の手で殺される兵達が見たい。吹き出る血しぶき、はみ出る臓腑、泣いて懇願する無様な姿や怨嗟を込める断末魔。そういった生きてる証が足りなさすぎる。
人が苦しむ姿が好き。人がナニカを求めて抗う姿が好き。人が生に縋りつく姿が好き。だから、この戦いは面白くないしお腹が減った。
満たす方法は無いだろうか。敵を捕まえたわけでもないから、味方を食べるのも気が退ける。夕を食べてもいいけれど、さすがに最近頼り過ぎて申し訳ない。
ふと、いい考えが思い浮かんだ。
危険な賭けだろうか。それとも安易な考えだろうか。否、楔を打つなら、今だけだろう。
兵の纏めに向かおうと立ち上がった斗詩に、あたしは伸びを一つして声を向けた。
「斗詩、先に帰っといて♪ あたしちょっと秋兄と話して来るー♪」
「えぇっ!? ちょ、ちょこちゃん!? 独断行動はダメって――――」
「いいの! 後で説明するし、死なないからさ。着いて来たら殺しちゃうよー」
話なんか聞いてやんない。跳ねる足取りで官渡に歩みを向けた。
郭図に対して、
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