赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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訝しげに問いかけられた。斗詩からすれば尤もな疑問だろう。
でも見ている場所が違う。違いすぎる。斗詩も猪々子も本初も……優しすぎ。
「あのね……勝利条件は曹操の敗北であって官渡の攻略じゃないんだよ。確かに官渡を奪えば勝てるけど、あたしと夕が欲しい最高の結果は曹操が従う事、そんでもって袁家を……本初と公路以外皆殺しにする事、なんだよ?」
驚愕に目を見開いた斗詩はぱくぱくと口を開いたり閉じたり。
――何も言えないとか……甘いよ。だってあたし達が負けたらもっと酷い事になるのに。怖がるから教えてあげないけど。
「だから精強で従順な兵が欲しいし、多くに生き残って貰わないと困るんだよ」
「っ……姫に親族と親を殺せって言うの!?」
反対するのは分かってた。世界の既成概念に反逆を上げる手段だろう。儒教に於いて家族の殺しは、最悪の部類だ。
ただ、そうでもこうしないと、腐ったモノは取り除けない。
「それがなに? 親だから命くらい救われるべきって? 親を殺すのは本初が悲しむからダメだって? 本初が親を殺すのはイケナイ事だからダメだって? 甘ったれんな、斗詩」
舌で唇を舐めると、彼女の顔が歪んだ。
自分の欲望もある。昏い暗い怨嗟が心には渦巻いている。それでもあたしなりに理を説いてやろうか。
「悪にも善にもなりきれないなら、乱世なんかに名乗りを上げるべきじゃないよ。生温さを残すから人は付け上がって世界が腐っていくんだ。人を外れて天に上りたいなら……親くらい生贄に捧げたらいんだよ。本初が選ぶべきなのはそういう道。覇道の贄に捧げるのは、己の身以外の全てじゃなくちゃ」
言い切ると、背中にじわりと熱さが灯った。
嫌な感覚。自分の親が最後に残したキズが疼く。感慨すら湧かないが、此れのおかげで夕に巡り合えたのだから良しとしよう。
恐れる視線がまだ突き刺さっていた。何を恐れてか、大体分かる。
「斗詩、本初はあたしみたいにはならないよ。大事なもんが残ってるもん」
言い当てられたからか彼女はびくついた。その肩にポンと手を置いて、ため息と苦笑を一つ。
「あんたと猪々子がいるじゃん?」
「……そんな軽いモノ、なのかな?」
疑問は尤も。あたし以外親を殺したことが無いのだから仕方ない。
でも、難民ならきっとそういう奴は溢れてる。貧困と飢餓に喘ぐ奴等にとっては、そこらへんにある不幸な出来事や成り立ち、結果に過ぎない。
本初とあたしは、たまたまめんどくさい家柄や状況だっただけで、きっとそれらと何も変わらないのだ。
――人は皆、死んだらただのクソ袋。だから一つの命で足掻いて、もがいて、苦しんで、絶望して……それでも生きたいと願い、定めに抗おうとするから綺麗なんだ。
斗詩の感覚で
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