暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
[13/22]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 訝しげに問いかけられた。斗詩からすれば尤もな疑問だろう。
 でも見ている場所が違う。違いすぎる。斗詩も猪々子も本初も……優しすぎ。

「あのね……勝利条件は曹操の敗北であって官渡の攻略じゃないんだよ。確かに官渡を奪えば勝てるけど、あたしと夕が欲しい最高の結果は曹操が従う事、そんでもって袁家を……本初と公路以外皆殺しにする事、なんだよ?」

 驚愕に目を見開いた斗詩はぱくぱくと口を開いたり閉じたり。

――何も言えないとか……甘いよ。だってあたし達が負けたらもっと酷い事になるのに。怖がるから教えてあげないけど。

「だから精強で従順な兵が欲しいし、多くに生き残って貰わないと困るんだよ」
「っ……姫に親族と親を殺せって言うの!?」

 反対するのは分かってた。世界の既成概念に反逆を上げる手段だろう。儒教に於いて家族の殺しは、最悪の部類だ。
 ただ、そうでもこうしないと、腐ったモノは取り除けない。

「それがなに? 親だから命くらい救われるべきって? 親を殺すのは本初が悲しむからダメだって? 本初が親を殺すのはイケナイ事だからダメだって? 甘ったれんな、斗詩」

 舌で唇を舐めると、彼女の顔が歪んだ。
 自分の欲望もある。昏い暗い怨嗟が心には渦巻いている。それでもあたしなりに理を説いてやろうか。

「悪にも善にもなりきれないなら、乱世なんかに名乗りを上げるべきじゃないよ。生温さを残すから人は付け上がって世界が腐っていくんだ。人を外れて天に上りたいなら……親くらい生贄に捧げたらいんだよ。本初が選ぶべきなのはそういう道。覇道の贄に捧げるのは、己の身以外の全てじゃなくちゃ」

 言い切ると、背中にじわりと熱さが灯った。
 嫌な感覚。自分の親が最後に残したキズが疼く。感慨すら湧かないが、此れのおかげで夕に巡り合えたのだから良しとしよう。
 恐れる視線がまだ突き刺さっていた。何を恐れてか、大体分かる。

「斗詩、本初はあたしみたいにはならないよ。大事なもんが残ってるもん」

 言い当てられたからか彼女はびくついた。その肩にポンと手を置いて、ため息と苦笑を一つ。

「あんたと猪々子がいるじゃん?」
「……そんな軽いモノ、なのかな?」

 疑問は尤も。あたし以外親を殺したことが無いのだから仕方ない。
 でも、難民ならきっとそういう奴は溢れてる。貧困と飢餓に喘ぐ奴等にとっては、そこらへんにある不幸な出来事や成り立ち、結果に過ぎない。
 本初とあたしは、たまたまめんどくさい家柄や状況だっただけで、きっとそれらと何も変わらないのだ。

――人は皆、死んだらただのクソ袋。だから一つの命で足掻いて、もがいて、苦しんで、絶望して……それでも生きたいと願い、定めに抗おうとするから綺麗なんだ。

 斗詩の感覚で
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ