赤は先を賭し、黒は過去を賭ける
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来を想像しながら。
兵士達と違い、斗詩と明は警戒を解かない。心が緩むはずもない。あの男は何も動かなかった。微動だにせずに、斗詩と明を見続けているのだ。油断など、出来る訳がない。
「各部隊千人長に伝令! 同兵器を使用し三面の城門を打ち壊せ! 杭の打ちつけられていない南側は攻めるなっ!」
分けすぎると統制が取れなくなる為に、夕と郭図は三つの面を攻略する事を選んでいた。さすがに他と全く違う組み方をされている面には不用意に近付けないというのもある。曹操軍が其処から逃げ出してこの官渡を放棄するならば勝ちが確定、という理由も一つ。逃げ道を敢えて残せば、思考に油断と隙を齎せるのだから。
曹操軍はまだ動かない。正面の城門を無傷で壊せるなら御の字だが、二人ともがこの戦場に気持ち悪さを感じていた。
「ねぇ、ちょこちゃん」
「分かってるって。相手は誘惑してるんだよ。生身の人間が近づくのを……虎視眈々と狙ってる」
敵の狙いはそれしかない。自分達が城門を壊して入り込もうとするのを待っているのだろう。なら、使ってくる兵器や罠は限定される。
――勝ち気に乗らされたわけだけど数で押し切れるかどうか……
明は相手の思惑を理解した上で命じている。この正面よりも先に、東西の城門で何が起こるか確かめさせたかったが故に。
持てる手段を全て使い、通じるかどうかも威力偵察の内。必要な犠牲を消費する事に、なんら躊躇いはない。
黒が目を光らせているこの場は攻めさせない。不可測ばかりを齎す男を動かす方が危険だと感じていた。
また、弦が弾かれる音が響く。轟音が鳴れば、兵士達の心も湧き上がる。
「秋兄と正面から戦うのは初めてだもんねー」
「どうしたのっ?」
二撃目が発されると同時に紡がれた言葉は掻き消され、斗詩が大きな声で聞き返すも、明はくつくつと喉を鳴らした。
「なーんでもない♪」
舌を出して答えれば、斗詩は首を捻った。ふるふると首を振って、斗詩にもう一度なんでもないのだと示した。
――夕とあたし、鳳統と秋兄……徐州では二対二で負けちゃったかんね。警戒するに越した事はないや。
残された策だけで手玉に取られたのは記憶に新しい。街全体を利用した異質な一手を思い出すと、そのまま突っ込むなど愚策に過ぎた。
彼女の判断は半分正解。
初撃が成功した時点で下がっては兵の士気も下がる。外側に火が燃えつき始めたのを見て下がっても同じこと。
しかしこの場に居座る事がどういう事か、彼女達は分かっていなかった。
「ちょこちゃんっ!」
ゆらり、と城壁の上で彼が動く。明は口を引き裂いて、何が来ようとも対応しようと思考を回し始める。
城壁の隅に上り剣を天に掲げた彼を見つめ……斗詩の頭には夕暮れが思い浮かん
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