第7話 壊レタル愛ノ夢(後編)
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手が届くはずだった。もう一度彼の顔を見ることができたはずだった。
強羅木は、それから帰ってこなかった。
一日経って、二日経った。クグチは特殊警備員待機室に顔も出さない。岸本が黙ってはいないだろうと思ったが寮に様子を見に来はしない。内線もかかってこない。
三日経って、四日経った。強羅木が来たのは夢だったのではないかと思う。しかし、彼のスーツケースが部屋の中にある。
五日目、言いつけを破って、強羅木を探しに行くことにする。
もう五日前ではないのに、まだ空は赤くて、いやに細長い針金のような人が都市にゆらゆらゆらゆら立っていて、目の焦点を合わすと消えてしまうけれど、前を見るとまた右に左にそれが見えて、クグチは何も見ないで過ごすために、考えごとをしなければならない。
桑島メイミの愛の記憶こそが、自分の人間性の証明であり得ると、桑島メイミの守護天使は考えた。
人間性が人間を人間たらしめるなら、人間性が生涯に獲得した情報によって形作られるなら、それらの情報を引き継ぎ、独自に補完したり新規獲得できる電磁体たちを人間と呼べない理由は何だろう。
「何だろう」
「何だろうね」
細長い人間が視界の隅のほうに立ち、
「私ね、わかったの、人間には魂があるって。私は幽霊なの。廃電磁体のことじゃなくて。私は本当の幽霊なの。魂はあるわ、あるわ、あるわ、あるわ、万物は生きているの」
「ご遺体! ご遺体!!」
膝くらいの身長の細い影が遠くで揺らめき、
「ご遺体ちょうだい! ちょうだいよ、ねえ! お願い! 食べないから! 約束するから!」
そんな細い影がひゅんひゅんと行き交い、視界の右端が暗い。左端も暗い。そんな中、クグチは自転車を漕いで急ぐ。
磁気嵐が支配する世界の、新しい人間たち。
「帰ってこないんです」
伊藤ケイタともう一度会う方法は心得ていて、あの喫茶店のあの店員に、彼に会いたい旨を伝えると、一番奥の席に通されて、十分後に伊藤ケイタが現れた。
「ここから海に出て、海岸沿いをまっすぐ歩いていくと、灯台が立つ海浜公園に出るんだ」
と、伊藤ケイタ。
「強羅木君と向坂君と、明日宮君との三人で、天文観測をしたって話を何度も聞いたことがあるよ。よっぽど楽しかったんだろうね。道東工科大のキャンパスにも学生街のほうにもいなかったなら、そこかもしれない。ごめんね。他に思い当たる場所は特にないんだ」
クグチは、コーヒーの氷が溶けて、グラスの中でコーヒーと水の二層に分かれている様子を漫然と眺めつつ答えた。
「ありがとうございます。行ってみようと思います」
「心配だろうね。僕も心配だよ」
「何事もなければいいですけど。まあ、あの人のことだから、どこかでけろりとしてるんじゃないかと……」
「そうだね。彼はね。色んな悪い出来事を知
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