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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶  〜 帝国歴486年(前篇) 〜
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インに視線を向けると頷いた。

「同意します。遠征期間は約一年に及ぶでしょう。作戦だけでなく補給、そして出兵後の国内の警備体制も含めて検討するべきだと思います」
「そうだな、だが先ずは」
「はい、小官と元帥閣下の所で」
「その後で兵站統括部、憲兵隊、そして政府か」
「最終的には陛下に御臨席をいただき御裁可を」
私とヴァレンシュタインの打ち合わせを軍務尚書は黙って聞いていたが陛下の御裁可の所で大きく頷いた。

「では先ず卿らで話を纏めてくれ、私は先に失礼する」
何時の間にか出口近くにまで来ていた。軍務尚書が出口に向かうと軍務尚書の副官が後を追った。同時には出られない、テロの被害を出来るだけ小さくするために五分後に出る。もっとも一番狙われるのは隣にいるヴァレンシュタインだろう。この男が最後に出る。その分だけ私と軍務尚書の身は安全だ。

妙な男だ。何度かこの五分間を共にしたが会話らしい会話をした覚えがない。こちらに含むところが有っての事では無い。話す事が無い、或いは何を話して良いのか分からない、そんなところだろう。無駄話の出来ない男なのだ。我々よりも副官の方が居心地の悪そうな顔をしている。五分経った、微かに頷くとヴァレンシュタインも頷き返した。それを見てから出口に向かった。副官がホッとした様な表情で付いて来た。

邪魔な男だった。危険な男だとも思った。何度も排除するべきだとも思った。だが気が付けばもっとも頼りになる男になっている。何時からだろう、あの男を敵ではないと思い始めたのは……。あれはベーネミュンデ侯爵夫人が死んだ年、四百八十六年の八月か、今は四百八十九の八月、もう三年になるのか。月日が流れるのは早いものだ……。



「先日起きましたヴァレンシュタイン中将襲撃事件ですが新たに判明した事実が有ります。御報告に上がりました」
執務室で報告書に目を通していると情報部長のロルフ・フォン・ヘルトリング中将が来た。まだ若い士官を連れている。どうせ報告はこの男にやらせるのだろう。ソファーに座らせず執務机の前に立たせた。無駄話をせずに終わらせるにはこれが一番だ。

ヘルトリングが自ら報告したのは最初の一度だけだ。良く内容を理解もせずに報告してきたのでこっぴどく叱りつけたら次からは部下に説明させるようになった。慎重なのか臆病なのかは分からんが次の人事異動で補給基地か哨戒部隊の司令官にでも転出させた方が良いかもしれない。情報部長にはいささか不適任だ。しかし後任がこいつ以上の馬鹿だったら……、なんとも頭の痛い事だ。頭の良い奴に限って前線に出て死んでしまうのだろう、最近では使えない馬鹿が増えているような気がする。

「それで、何が分かった」
「シュミードリン少佐、元帥閣下に報告し給え」
ヘルトリングの言葉に若い士官が姿勢を正した。
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