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届いた願い
第六章
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第六章

 その病室を病院の外から見上げている男がいた。それは彼だった。
「よかったですね」
 優子達がそこにいるのをはっきりとわかっての言葉だった。
「大切な人が助かって。それで」
「相変わらずね」
 その彼の後ろに妖艶な女が現われた。黒く長い髪を上で束ねてそれで後ろでまとめてうなじを見せている。目は切れ長の奥二重で黒い目が冷たい光を放っている。顔は細長く白い。そして唇は小さく紅の色をしている。黒いスーツにズボン、ネクタイは赤だ。背は高く大きな胸に長い脚がそのスーツからもはっきりと見えていた。その彼女が彼の後ろに現われてそのうえで声をかけてきたのだった。
「そうして人に情を忘れないのは」
「助かる命だっただけです」
 速水は彼女にこう述べたのだった。
「私はそれだけです」
「それだけなのね」
「貴女もそうしたと思いますが」
 速水は彼女に顔を向けてこう返してきたのだった。
「松本沙耶香さん。そうではないですか」
「私はそんな人間じゃないわ」
 名前を言われた沙耶香はうっすらと笑って彼に告げた。
「気が向かないと何もしないわ」
「何もですか」
「そうよ、何もね」
 こう言う沙耶香だった。口では。
「気が向かないとね」
「では気が向かれたら?」
「ひょっとするかもね」
 うっすらと笑いながらまた言うのであった。
「その時はね」
「そして必ず気が向く」
 速水はその彼女にさらに話す。
「私はそう見ていますが」
「そうかも知れないわ。それにしてもあの娘は」
「御気に召されましたか?」
「好みではあるけれど抱きはしないは」
 それはしないというのであった。
「あれだけ一途だとね」
「おや。人の奥さんでも喜んで篭絡する貴女がですか」
「私が抱くのはあくまで相手に隙がある場合」
 そうした場合だけだというのである。
「あそこまで一途な娘は抱かないわよ」
「そうですか」
「無理強いはしないから」
 それが沙耶香の流儀だったのだ。彼女が抱く相手はそこに彼女が入り込む余地がある場合だけである。そうでない場合には全く動かないのである。
「だからよ」
「それもまた貴女らしい」
 速水はそんな彼女を賞賛してみせてきた。
「ですから私は」
「悪いけれど今は貴方には気が向かないわ」
 また微笑んでの言葉だった。
「そのうち。気が向けばね」
「ではその時を待ちましょう」
 速水もまた微笑んで彼女の言葉に返した。
「その時にまた」
「気長に待つことね。では私は」
「何処に行かれるのですか?」
「その隙のある娘を見つけたわ」
 見れば口元に笑みを浮かべている彼女の視線の先には一人の美しい看護士がいた。まだ看護士になったばかりのような初々しい娘であった。
「ああした娘もまた美味しい
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